財務・税務

外注契約の落とし穴 ―契約を結ぶ前に考えておきたいこと―

薬剤師 × 税理士の薬局経営教室
市川秀税理士事務所 税理士・薬剤師 市川 秀
多様な働き方が求められている昨今、薬剤師の世界でも外注契約という働き方が広がりを見せています。
薬局としても、人材確保が難しくなる中で、 「正社員として雇うのではなく、外注契約(業務委託契約)でお願いできないか」  という相談を受ける機会が増えてきました。
確かに、業務委託契約であれば給与としての支払いではなく 「外注費」 として処理できるため、社会保険料の負担が発生しません。場合によっては消費税の仕入控除が使えることもあり、コスト面のメリットが大きく見えるでしょう。
しかし、この方法には税務上・法務上の大きなリスクが潜んでいます。今回はそのポイントを整理してみましょう。

■ 「外注」 と 「従業員」 の線引きは“契約書”ではなく“実態”

税務の世界では、どれだけ 「業務委託契約書」 を交わしていても、実態が従業員であれば、それは給与支払いとみなされます。
つまり、 「書面上の呼び名」 よりも 「日々の働き方」 が判断の基準となりうるのです。
たとえば、次のようなケースでは外注ではなく実質的な従業員とみなされる可能性が高くなります。
  • 出勤・退勤時間が決まっており、他のスタッフと同じようにシフトに入っている(時間が拘束されている)
  • 勤務場所が固定され、薬局の白衣やPCなどを使用している
  • 薬局長や管理薬剤師から業務指示を受けている(指揮命令系統がはっきりしている)
このように、時間・場所・指揮命令系統に縛られている場合、税務上は 「雇用関係に近い」 と判断されることが多いです。

■ 「外注費」 として処理したつもりが、源泉徴収漏れに?

仮に外注として支払っていた報酬が、税務調査で 「給与とみなされた」 場合、どうなるでしょうか。
この場合、本来引くべきだった源泉所得税を差し引かずに支払っていたとして、薬局が 「源泉徴収義務違反」 を指摘されることになります。
徴収漏れの所得税は、雇用主(=薬局)側がまとめて支払わなければならないため、非常に大きな負担です。
たとえば令和7年の税率をもとに計算すると、報酬が月50万円の外注者1名に対して、本来の源泉税額は約15万円程度(主たる事業所ではないため高額な乙蘭にて計算)になります。
税務調査ではこれが数年分まとめて請求されるため、1人分でも数十万円、複数名いれば数百万円単位の追徴になるケースもあります。さらに、その外注者がすでに退職・転居しており、差額分を請求できない場合も少なくありません。 「安く雇えたつもりが、後から高くついた」 という結果になりかねないのです。

■税務以外にも潜むリスク ― 社会保険・労災・賠償責任

リスクは税金だけにとどまりません。
万一、勤務中に調剤過誤や事故などが発生し、賠償責任が問われた場合、“外注扱い” であったために薬局の保険が適用されないケースもあり得ます。
また、外注者は原則として社会保険の適用外となります。しかし実態が従業員であれば、年金事務所などから 「社会保険の未加入指摘」 を受ける可能性があります。その場合、過去に遡って保険料を徴収されるリスクも否定できません。

■外注契約が有効に機能するケースもある

もちろん、すべての外注契約が問題というわけではありません。
近年では、比較的取り入れやすいオンラインでもできる業務を中心に、薬局のウェブ運営やオンライン服薬指導のサポート、在宅支援の資料作成、広報・ライティング業務など、専門性のある外部人材を業務委託で活用するケースが増えています。
また、現場にいる人間だけではどうしても解決できないことに対し、現場に入ってもらい、多方面での経験や専門知識を活かしてもらって、課題を解決していくコンサルのような業務委託もあります。
このように 「時間・場所に縛られず」 「成果物で報酬を支払う」 業務であれば、外注契約の形は非常に有効です。
DXやAIの進化が著しい昨今、クラウドソーシングやオンライン秘書などを活用して薬局経営をサポートしてもらうことは、時代の流れに沿ったアプローチと言えるでしょう。

■まとめ ― “契約形態” ではなく “働き方” で判断を

外注契約を結ぶ際には、 「社会保険料を抑えたい」 といった目的だけで判断してはいけません。
税務署や年金事務所は、契約書ではなく "実態” をもとに判断します。薬剤師が勤務時間・勤務場所・指揮命令のもとで働いている場合は、契約上外注であっても、実質的には従業員とみなされる可能性が高い。そうなれば源泉徴収漏れや社会保険未加入と いったリスクが一気に顕在化します。
一方で、明確な成果物があり、時間や場所に縛られない業務であれば、外注という選択肢は合理的です。
薬局経営者としては、 「どの業務が本当に外注に向いているのか」 「どこからが従業員なのか」 を慎重に見極め、契約書の整備だけでなく実態管理にも目を向けることが大切です。多様な働き方を取り入れること自体は時代に合った経営判断です。
ただし、税務・法務の観点からのリスクも踏まえたうえで、専門家と相談し、賢く人的リソースを活用していきましょう。


【2025年12月号 Vol.8 Pharmacy-Management 】