病院・診療所

かかりつけ医機能報告制度がスタート

診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■かかりつけ医機能の定期報告は来年1月から開始

2025年4月から外来地域医療構想の一環で 「かかりつけ医機能報告制度」 がスタートした。報告は診療所だけではなく、特定機能病院を除く全ての病院が対象になるが、実際の報告は本年11月頃に医療機関への定期報告依頼が行われ、来年1~3月が医療機関による定期報告、都道府県からの未提出医療機関への催促となっている。詳細は、これから都道府県や医師会等から通知されるため対応はそれからになる。
同報告制度では、 「かかりつけ医」 とは 「日常的な健康管理、軽微な病気の診療、慢性疾患の管理、専門医や医療機関への紹介などを担う医師」 、 「かかりつけ医機能」 とは 「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」 と定義している。今後、同報告制度で集められたデータをもとに地域において、かかりつけ医機能の議論が行われていくわけだ。

■イギリスのGP制度は完全否定へ

これまで、かかりつけ医については 「家庭医」  「ファミリードクター」  「プライマリケア医」 などさまざまな呼称があった。これまでの議論を振り返ると診療側の日本医師会、日本病院会ともに 「かかりつけ医機能」 は医療機関が自主的に届け出ることが望ましいという考えであった。結果的にはその自己申告という形に落ち着いた。
一方、支払側の健保連はかかりつけ医を認定制にした上で、国民・患者が任意でかかりつけ医1人を登録する仕組みを提案した。かかりつけ医・医療機関に対する診療報酬や保健事業への支払いは今後の検討課題と提案した。財務省も同様にかかりつけ医の制度化を求めていた。これはイギリスの国営医療保険制度のNHS(National Health Service)の一般開業医(GP:General Practitioner)のような、住民の登録人数に応じた 「人頭払い制」(Capitation)のイメージであった。もちろん、日本の医療保険制度はフリーアクセスで外来は出来高払いが基本なので、英国のようなGP制度や人頭払い制度導入は不可能であり、この考えは否定された。
これについては日本福祉大学元学長で同大学の二木立名誉教授が 「多くの 『かかりつけ医の制度化』 論者が求めていた、イギリスNHSのGP制度を範とする、全国民を対象にした登録制・認定制、包括払いや人頭払いのかかりつけ医制度の創設が否定されたことです。コロナ禍後、イギリスのコロナ死亡患者が、実数・人口当たりとも、ヨーロッパ諸国の中でも飛び抜けて多いことが報じられただけでなく、コロナ禍を契機に、イギリスの医療制度が 「崩壊状態」 にあることが広く知られるようになったためか、現在では、イギリス式のGP制度の日本への導入を正面から主張する人は皆無になっています」 ( 「二木教授の医療時評」 (228) 『文化連情報』 2025年2月号(563号):26-34頁)と述べている。

■かかりつけ医制度と診療報酬の紐づけは確実

同報告制度は医療法上における位置づけだが、診療報酬(健康保険法)においては、2026年度改定以降に点数との整合性を取っていくのは間違いない。前号で書いたように医療法と健康保険法上の診療報酬は車の両輪であり、法的側面(医療法)と経済的側面(診療報酬)から、わが国の医療提供体制を政策誘導していくのは過去の歴史が証明している。
具体的には 「この機能=この点数」 が要件というものになる。現在、診療報酬でかかりつけ医機能を評価した代表的な点数には 「生活習慣病管理料」 がある。2024年度改定で 「生活習慣病を中心とした管理料・処方箋料等の効率化・適正化」 で▲0.25%とされたのは診療所にとって厳しい内容であった。具体的には内科系診療所で 「特定疾患療養管理料」 の対象疾患から高血圧症、糖尿病、脂質異常症の3疾患が除外された減収である。財務省の 「診療所はマイナス改定に」 という意向を受けた改定内容であった。
その代替点数 「生活習慣病管理料」 は、改定前の検査や注射などを包括したものを(Ⅰ)とした上で、包括しない(Ⅱ)を新設した。改定で除外された3疾患の患者は、多くの医療機関では(Ⅱ)での算定になった。同管理料算定で現場負担が大きくなったのは、療養計画書作成、説明と同意、患者署名のプロセスである。初回算定時は療養計画書が必須、継続して同管理料を算定する際は変更がない場合は省略可能になる。ただし、患者から求めがあった場合や概ね4か月に1回は療養計画書の交付が必要とされた。
同管理料は200床未満病院と診療所が算定対象になっている。病院に電子カルテが導入されており、外来に医師事務作業補助者が配置されている場合は勤務医の負担はあまり大きくはない。しかし、電子カルテ未導入や診察室内に医師事務作業補助者や看護職員等がいない場合はすべてが医師の業務負担となる。電子カルテ未導入で、7割ほどが3疾患患者という内科診療所の院長は、手書きでの計画書作成と説明・署名への対応に 「働き方改革は勤務医にはあるけど、事業主の診療所医師にはないのか」 と嘆くことしきりだった。筆者も事業主のために同様であった。


【2025. 5. 1 Vol.1 メディカル・マネジメント】