財務・税務
非営利法人のコンプライアンス問題について考える
医療機関のガバナンスを考える
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
「コンプライアンス」 は、企業経営において欠くことのできない極めて重要なものとされています。どのような企業体であっても、コンプライアンス違反は、組織に多大なダメージを与え、場合によっては事業継続の危険性をもたらすこともあります。
最近、敷地内を全面禁煙にしている医療機関で、一部の職員が病棟の陰などで長年喫煙していた事案が発覚し、診療報酬を返還することになったニュースを目にされた方も多いのではないでしょうか。診療報酬の返還額自体が医療機関の事業継続に直結しなくとも、この一部職員によるコンプライアンス問題が大きく失墜させた医療機関への信用と信頼を取り戻すためには、多大な労力と時間を要することは言うまでもありません。
そして、私自身も最近の会計監査を通じて、非営利法人で起こる不正・コンプライアンス違反を確認する場面に遭遇し、これまでにない危機感を抱いています。職員一人ひとりのモラルに期待したいところではありますが、それだけに頼る、いわば性善説を前提にした組織作りは限界が来ているのかもしれません。今回は、非営利法人のコンプライアンス問題について考えてみたいと思います。
1.コンプライアンスとは
コンプライアンス(compliance)は、 「法令遵守」 を意味しています。ただし、コンプライアンスを遵守するとは、単に 「法令を守れば良い」 ということにはなりません。企業経営に求められている 「コンプライアンス」 には、法令遵守だけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務を行うことが求められています。ここで、コンプライアンスを遵守する上での重要な要素として、①法令 ②就業規則 ③社会規範・企業倫理が挙げられます。法令や就業規則は文書で明記され、遵守しているかどうかの判断が比較的容易である一方、社会規範・企業倫理に即した行動を取ることは難しくなっているのかもしれません。
社会規範・企業倫理を換言すれば、 「企業が社会から求められる倫理観、公序良俗を守る意識」 となります。どちらも法令には定められていないものの、利用者や取引先など、周囲からの信頼を獲得し、事業を継続するための要素として不可欠です。
社会規範・企業倫理を換言すれば、 「企業が社会から求められる倫理観、公序良俗を守る意識」 となります。どちらも法令には定められていないものの、利用者や取引先など、周囲からの信頼を獲得し、事業を継続するための要素として不可欠です。
2.コンプライアンス違反が起きてしまう背景
営利・非営利問わず、コンプライアンス違反による企業の不祥事は後を絶ちません。しかも、非営利法人では、例えば、社会福祉法人の理事長が法人の口座から自宅工事の代金を支払ってしまった、口座から現金を引き出したといったニュース、医療機関では勤務医が酒を飲んで出勤したとか、冒頭のような敷地内での喫煙が問題となっています。単に知識がないために、知らず知らずのうちにコンプライアンス違反をしていたというレベルではない違反事案がある意味目立ってしまうのが非営利法人の特徴の1つではないかと思います。
さらに言えば、非営利企業のコンプライアンス問題では、最も守るべき法人のトップがコンプライアンスについて正しく認識していないのではないかと感じる場面も少なくありません。トップこそ、率先して守るべき規範を提示しなければ、職員のコンプライアンス意識が高まることはありません。
加えて、非営利法人にはそもそもコンプライアンスを管理する仕組みがない、もしくはシステムが脆弱(ぜいじゃく)で情報漏えいしやすいなど、法人内部の組織体制に問題があるケースも見受けられます。
さらに言えば、非営利企業のコンプライアンス問題では、最も守るべき法人のトップがコンプライアンスについて正しく認識していないのではないかと感じる場面も少なくありません。トップこそ、率先して守るべき規範を提示しなければ、職員のコンプライアンス意識が高まることはありません。
加えて、非営利法人にはそもそもコンプライアンスを管理する仕組みがない、もしくはシステムが脆弱(ぜいじゃく)で情報漏えいしやすいなど、法人内部の組織体制に問題があるケースも見受けられます。
3.非営利法人にこれだけは取り組んでいただきたいこと
不正をしている人がいても、誰に報告していいのかわからない、誰もが簡単に機密情報にアクセスできてしまう。このような環境では、コンプライアンス違反を防ぐことができません。少なくとも、以下の3つについては、コンプライアンス遵守に向けて整備・運用が求められます。
① コンプライアンス遵守のための規則、マニュアル の作成、社員教育の定期的な実施
コンプライアンスを遵守することの大切さをまずもって社員が理解することが重要です。最低限、専門家の監修のもとで社内規則やマニュアルを作成し、違反を防ぐことを徹底する。また、基本原則のガイドライン、社員教育、罰則規定などを定め、繰り返しコンプライアンス遵守の大切さを定期的に確認する機会を設けることが大切です。
② 性善説に依存したガバナンスを構築しない
「○○さんに限っては」 とチェック体制を甘くしている部分はないでしょうか。また、ダブルチェック体制になっているから大丈夫というような統制はないでしょうか。忙しさや気持ちのゆるみから、 「チェックしているはず」 と思い込み、結果的に不正は起こるものです。それを避けるには、内部監査のような牽制を定期的に実施することが有効となります。
③ 相談窓口の設置
コンプライアンス違反は、職員から経営者、上司などへの報告・相談から発覚するケースが多くみられます。そのため、違反の防止には、社内に相談窓口を設置することが効果的です。なお、窓口を運用するには、公益通報者保護法にも留意し、専門家と相談しながら職員が相談しやすい環境を整備することが大切です。
【2025年7月1日号 Vol.5 メディカル・マネジメント】
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