病院・診療所

「掃除=雑務」の誤解を解く! 院長が取り組むべき職場風土づくり

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

整形外科クリニックを開業して10年目の院長からの相談です。
「スタッフ数も増えてきて、院内の清掃は 『スタッフ全員で分担』 する運用をしてきました。しかし最近、理学療法士チームから 『なぜ国家資格を持つ自分たちが掃除をしなければならないのか』 という声が上がり、特にリーダー格の理学療法士が掃除を率先して行わないため、後輩たちもその姿勢に影響されて掃除を避けるようになってしまいました。その結果、事務職や看護師から不満が噴出し、私に対して 『公平ではない』 と猛烈な抗議がありました。掃除を嫌がる理学療法士に自発的に掃除に取り組んでもらうためには、どのように指導をすればよいでしょうか?」

【回 答】

これは単なる掃除の問題にとどまらず、クリニック全体のチーム文化と信頼関係が揺らいでいる状態です。では、どうすれば理学療法士も自発的に掃除に取り組み、他部署と協力して院内を清潔に保つ文化を作ることができるのか、回答させていただきます。

1.掃除の意味づけを変える ― 院長が理念を示す
理学療法士は国家資格を持つ専門職として高いプライドを持っています。そのため、 「掃除=雑務」 という認識を持ちやすく、モチベーションが下がりやすいのです。
ここを変えるには、まず院長が掃除を行う意義を明確に伝えることが欠かせません。
掃除は単なる雑用ではなく、医療事故を防ぎ、患者さんに安心して通っていただくための医療行為の一部です。清潔な院内環境は、患者さんの回復を支える大切な治療基盤であり、誰か一人が担うのではなく、全員で協力して守るものです。職種や資格に関係なく、同じゴールを目指すチームとして掃除を行うことが、患者さんへの最大の安心につながります。
さらに、院長自身が率先して掃除に取り組む姿を見せることが 「本気度」 を示す強力なメッセージになります。トップが背中で語ることが、スタッフの行動変容を促す第一歩です。

2.リーダー格への個別アプローチ ― 尊重と責任を伝える
掃除を嫌がるリーダー格の理学療法士への対応は、公開の場ではなく個別面談で行うことが重要です。
まずは本人の考えを丁寧に聞き、背景を理解します。たとえば業務が過密で掃除をする時間がない、役割が不明確、掃除を 「雑用」 と感じている、など理由はさまざまです。その上で、以下のように伝えると効果的です。
「○○さんはリハビリチームの中心的存在です。あなたの姿勢は後輩に大きな影響を与えます。掃除自体が重要というよりも、○○さんが率先して行動することで、後輩や他部署との信頼が築かれます。チームをまとめるリーダーとして、協力してもらいたい」
「掃除をしろ」 ではなく、 「チーム文化をつくるリーダー役を担ってほしい」 という依頼型アプローチがポイントです。

3.公平性を可視化する ― 分担表と担当者表示
「自分たちばかり負担している」 という不満を防ぐためには、見える化が欠かせません。
① 掃除分担表の作成
▪ 曜日・担当場所・時間を明確にして全員に共有
▪ 掲示板やLINEグループで確認できるようにする。
② 担当者表示を設置
▪ 清掃箇所に 「本日の担当:○○」 と表示し、責任感を高める。
▪ 表示があることで、患者さんにも 「清潔管理が行き届いているクリニック」 という印象を与えられます。
この仕組みを整えることで、不公平感や 「あの人がやっていない」 という陰口を防ぎ、透明性を確保します。

4.インセンティブを導入してモチベーションを上げる
掃除を 「やらされている感」 から 「やりがい」 に変えるためには、インセンティブ制度が効果的です。金銭的な手当と、目に見える評価の両面からアプローチします。
① 清掃手当の導入
•  金額はわずかでも 「掃除は評価される仕事」 という認識が広がります。
例:掃除1回あたり15分で 「そうじ手当」 500円程度(最低賃金以上にする)
② 評価制度への反映
•  人事評価の 「率先して掃除をしている」  「後輩を巻き込んで協力している」 など行動面を賞与にて評価する。
③ モチベーションアップの工夫
•  「ピカピカ大賞」 など、1カ月ごとに最もきれいに掃除したチームを表彰。
•  院内掲示で結果を発表し、ゲーム感覚で参加できる仕組みを作る。

5.研修で「掃除=医療行為」の意識を浸透
清掃に対する価値観を根本から変えるためには、教育が不可欠です。
• 院内感染対策や転倒防止など 「清潔で安全な空間を保つことも患者を守る医療行為である」 という意識を全員で共有する。
• 外部講師を招き、専門的な視点で掃除の重要性を学ぶのも効果的です。弊社クライアントでは、2カ月に1回、外部講師を招き5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)について講義と実践の確認を行い、スタッフ全員で価値観の共有と維持を図っています。

これらを組み合わせることで、 「やらされ感」 から 「誇 りを持って取り組む文化」 へと変化し、スタッフ間の信頼が回復し、患者さんにも 「清潔で信頼できるクリ ニック」 という安心感を与えることができると考えています。ぜひチャレンジしてください。


【2025年10月1日号 Vol.11 メディカル・マネジメント】