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正常分娩費用の自己負担無償化議論

診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■2024年の出生数68万人台という衝撃

厚生労働省の人口動態統計による2024年に生まれた日本人の子どもは68万6061人(前年比5.7%減)で過去最少という数字に衝撃が走った。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子ども数)も1.15(前年比0.05ポイント低下)と過去最低になった。実は国の2023年の推計では68万人台になるのは2039年のはずだったが、現実は15年も早くなった。
日本経済新聞10月8日朝刊には、 「2024年に生まれた外国人が2万人に達し、新生児に占める割合が3%を超えた。ともに初めての水準とみられる。働き手世代を中心に在留外国人は総人口の約3%まで増えてきたが、出生段階でも日本の低出生数をある程度補う新たなステージに入った。規制強化だけに偏らない、共生策を含めた外国人政策がより重要になる」 と書かれている。
人口動態統計では、 「両親とも外国籍」 か 「嫡出ではない子のうち母が外国籍」 の場合に 「日本における外国人の出生」 と定義している。2024年の確報によると、外国人の出生数は前年より3000人以上多い2万2878人だった。10年前に比べて1.5倍に増えた。全体の出生数に占める外国人の比率は3.2%と外国人の新生児数が日本人の出生数の落ち込みを補った計算になる。外国人出生がないとさらに出生数の低下を招くわけだ。

■議論の整理に関する3つのポイント

次回2026年度改定に向けて正常分娩の保険適用が議論されている。政府が 「こども未来戦略」 で 「2026年を目処に、出産費用(正常分娩)の保険導入を含め、出産に関する支援等のさらなる強化について検討を進める」 としたことを踏まえ、岸田文雄元首相が掲げた 「異次元の少子化対策」 の一環になる。現在は 「妊娠・出産は病気やケガではない」 という理由で、正常分娩は健康保険の適用という 「現物給付」 ではない。その代わりに 「現金給付」 である出産育児一時金(50万円)で出産費用の負担軽減が図られている。ただし、帝王切開等の 「異常分娩」 となった場合は病気やけがの扱いとなり、医療保険給付の対象になっている。厚労省は5月に正常分娩の保険導入について協議してきた 「妊娠・出産・産後における妊婦等の支援策等に関する検討会」 がまとめた 「議論の整理」 を公表した。社会保障審議会の医療保険部会や医療部会に引き継がれており、これから細かな議論が行われる。議論の整理のポイントは①費用の見 える化を前提とした標準的な出産費用の自己負担無償化と安全で質の高い周産期医療提供体制の確保の両立、②希望に応じた出産を行うことのできる環境の整備、③妊娠期、産前・産後に関する支援等となっている。

■平均出産費用の都道府県格差は最大23.6万円

診療報酬は入院料の 「地域加算」 を除いて全国一律であるが、自由価格の出産費用には都道府県格差がある。土地代や人件費が高い都市部が高くなるのは資本主義経済の原則だ。厚労省によると全国の平均出産費用は年々上昇しており、2022年度48.2万円、2023年度50.7万円、2024年度上半期51.8万円となった。2023年度における都道府県別の正常分娩の平均出産費用が最も高いのは東京の62.5万円であり、神奈川(56.9万円)、愛知(52.6万円)、宮城(52.4万円)、茨城(52.3万円)などが続く。一方、低いのは熊本(38.9万円)、鳥取(40.9万円)、青森(40.9万円)、沖縄(41.0万円)、 高知(42.8万円)となっている。
最も高い東京と最も低い熊本の差は約1.6倍、金額にして23.6万円の差が生じている。また、同一都道府県内でも施設間で平均出産費用に大きな差があり、手厚いアメニティやサービスがある病院では高くなる。都内には芸能人やセレブご用達のお産ブランド病院が複数あり、そこでは100万円を超える。
もちろん、今回は 「標準的」 な出産費用の自己負担無償化に向けての検討なので、高額なサービス部分等は室料差額等と同様に自己負担になるだろう。ただし、 「標準的」 価格にも地域格差があるため、設定をどうするか検討が必要だ。さらに保険適用である異常分娩の3割等の自己負担問題もある。

■出産後の育児費用や教育費用も拡充が必要

現在、正常分娩は産科診療所が47%を担っているが、日本産科婦人医会の 「産科診療所の特別調査」 では2023年度の赤字施設割合は42.4%で前年の41.9%から増加している。これらの経営安定化も必要だし、産婦人科医の不足地域もある。2026年改定で財務省は診療所点数の引き下げを要望している。産科診療所点数を引き下げたら、 「少子化による分娩数減少」 「産科医のハードワーク」 「医療訴訟のリスク」 等があるため、減少に歯止めがかからないだろう。
出産費用の自己負担無償化は少子化対策のインフラとして絶対に行うべきだ。ただし、出産時よりも、その後の育児費用や教育費用が大きいため、育児休業補償給付金や児童手当のさらなる拡充も必要である。新政権では日本全体の問題である少 子化を少しでも緩和させるため、社会全体で大胆な子育て支援対策が持続的に必要となる。


【2025年11月1日号 Vol.13 メディカル・マネジメント】