保険薬局

山間過疎地域で新米在支診薬剤師になって

在宅医療の羅針盤
公益社団法人地域医療振興協会 在支診薬剤師 上村 里菜

【山間過疎地域で働く理由といきさつ】

私は今、山間過疎地域で在支診薬剤師として働いています。なぜかといいますと、山間過疎地域の医療の役に立ちたかったからです。自身がそのような地域で育ったこと、そして母が地域で働く看護師だったことが、この動機につながっていると思います。
大学時代には薬剤師の多様な働き方を知りたくて、様々な地へ医療の形を見学に行きました。在支診薬剤師という働き方を知り憧れたのも、現在所属している診療所の医師と出会ったのも、その頃です。
薬剤師になった私が数年間、保険薬局で在宅医療を経験した頃、この医師から誘いを受けて在支診薬剤師になりました。人口減少が止まらない当地域では、唯一の300床弱の病院が町外移転してしまったことをきっかけに、医療の空白が生まれる可能性がありました。そこで、医療体制の強化を目的に診療所で初の薬剤師を募集した、というわけでした。

【迷う日々の中で薬剤師の職能が役に立つと気づいた】

「山間部の診療所に薬剤師がくる!!」薬局薬剤師も含め、他の医療者にとって、そして患者さんにとっても不思議なニュースだったことと思います。在支診薬剤師が何をかするのか分からず、「何を頼んだらいいのか分からない」 「なぜ薬局ではなくて診療所にいるの?」 と皆が思っているのを感じました。そこから、手探り状態の中で少しずつ業務を広げていき、周りとの認識の溝を埋めていきました。まず、診療所での院内調剤にとりかかりました。モノの管理は多職種から見てもわかりやすく、最初 にとりかかるにはとても良い仕事でした。「薬剤師の当たり前」 がこんなに役に立つのかと驚いたほどです。整理整頓・在庫管理・採用薬の再選択、一通り行うと薬関連のミスや無駄な出費が減り、患者さんに正しく、安全に、安価に薬を供給できる体制が整いました。患者さんから薬の相談を受けることも増え、たくさんの感謝の言葉や、畑で採れた美味しいお野菜をいただきました。
次に、処方の内容を医師に提案する機会が増えました。1例に提案すると、また1例の繰り返しです。看護師さんから、「これ、薬剤師から医師に言ってもらったほうがいいと思うから、よろしく!」 と頼まれることも増えました。これらの積み重ねによって、今では業務が多岐にわたるようになり、訪問診療や訪問看護への同行と薬関連の問題解決、併設する老健施設の薬剤管理や減薬提案など、様々な枝分かれをしました。

【地域の薬局薬剤師の方々の有難さを感じる日々】

入職してすぐに地域の薬剤師会に所属させていただき、薬局薬剤師の方々と勉強したり、活動したり、情報共有したり、顔の見える関係を構築していきました。薬局薬剤師の方々から地域の歴史や患者さんの背景を聞いたり、学校薬剤師の活動を教えていただいたりするなかで、少しずつ地域を理解できてきました。
院内採用の医薬品には限りがあり、また山間部のため医薬品の配送頻度も少なく、院外処方をお願いする場合が多々あります。また、在宅患者さんに関しては全員が院外処方です。いつも迅速に必要な薬を調達し、患者さんが正しく服用できるように届け、管理してくださる薬局薬剤師の方々には頭が上がりません。なるべく負担がかからないよう、在庫の事前確認、処方数の調整や併用薬や治療方針の情報開示などを積極的に行うようにしています。日々いただく疑義照会、患者さんの状態報告は大変ありがたく、治療を見直すきっかけになります。OTC薬や市販の栄養剤の供給も、治療の選択肢が広がるため大変助かります。私は、薬局薬剤師の方々と医師・看護師・患者さんの間に立って、潤滑油のような働きができたらと日々思っています。

【これからの地域を一緒に考える】

私が当地域に来て2年半が経ちました。この間に山間部の人口は10%ほど減少し、地域内の医療機関は2施設減りました。刻一刻と変化する最中にいることを感じます。しかし、ずっと前から厳しい環境に患者さんが暮らしていて、強く楽しく生きていて、最期までここで生きたいと望んでいる。山間部最後の1名になるまで生きている人がいれば、それを支える人がいる。その事実は変わりません。好きな場所で過ごしてもらいながら、医療の機能を継続する、患者も医療者も自治体も無理がないという全体の落としどころを探していかなければいけないと感じています。特定の薬局だけに負担がかかりすぎないように、様々な薬局との協力が必要です。また、効率化も図らなければいけません。
日々、山間過疎地の医療の魅力と難しさに対峙し、自分の無力さを感じます。しかし、状況や環境が変わっても、「治療の中心を担う薬物治療」 をより良くするという基本に立ち返り、薬局薬剤師の方々に教えていただきながらコツコツ勉強していくしかないと言い聞かす毎日です。


【2026年2月号 Vol.10 Pharmacy-Management 】