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労働力人口の推移と分業

分業のメリットと人材の確保
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
今年4月から医師の時間外労働の上限規制が適用される対策の1つとして、タスクシフティングやタスクシェアリングという言葉が使われるようになりました。タスクシフティングは、医師の業務を他の職種にシフトすることであり、タスクシェアリングは、医師の業務を他の医師と分け合うことです。これらは、新しい方策のように聞こえますが、本質を捉えれば、アダム・スミスが18世紀に提唱した 「分業」 と何ら変わらないと考えます。この分業のメリットは、医療機関の人事担当者にとって重要な考えであり、また、今後の労働力人口の年齢階級別変化を想定すると、一層考慮する必要性が生じると思われます。そこで、今回は、労働力人口の年齢階級別の推移と分業について考えます。

労働力人口の推移

総務省統計局の労働力調査の内容を抜粋し、2023年までの10年間の推移を図にしました。この図の労働力人口とは、15歳以上の人口のうち 「就業者」 と 「完全失業者」 を合わせたものを言います。15~64歳の労働力人口は、この10年間ほぼ横ばいに見えますが、若干増えています。そして、65歳以上の労働力人口は増加傾向にありますので、総労働力人口は、この10年間で増えていることになります。ただし、年齢階級別で見ると、35~44歳の労働力人口は明らかに減少しており、中堅の人材が減少傾向にあることが分かります。誌面の関係で、すべての年齢階級を示すことはできず、最も減少傾向の大きな階級のみ載せたわけですが、出生数が毎年減っていることからすれば、若い労働力人口が今後減っていく傾向にあることは容易に推測できます。その減る分を、主に高齢者や主婦など短時間労働者でまかなうようになるのだと思われます。
このように労働力人口は増えていても、働く人の中身(高齢者など短時間労働者が増える)が異なっていく時代、言い換えれば、労働投入量(総労働者の総労働時間)が減少していく時代において、労働集約型の医療機関の人事担当者にとって、どのように人材を確保し、質の高い医療を提供し続けられるかが、今後の重要な課題となるはずです。
したがって、早い時期から、人材の確保と生産性の向上のための体制づくりをしなければなりません。この際、人事担当者に思い出してもらいたいことが、分業のメリットです。

図:労働力人口の推移(万人)




分業のメリットと人材の確保

19世紀のイギリスの数学者であり、コンピューターの父と言われたチャールズ・バベッジは、分業のメリットを3つ挙げました。1つは、専門性の高い人に仕事が集中してしまうが、分業によってその仕事量を減らすことができるということです。医師5人で行っていた仕事を医師4人と事務員1人で行うようになれば、医師の仕事量は減ったことになります。2つ目は、人件費を抑制できることです。専門性の高い人の賃金は専門性の低い人よりも高額ですから、当然、分業によって人件費を減らすことができます。3つ目は、人材の確保が容易になることです。医師を5人採用するよりも、医師4人と事務員1人採用するほうが、容易なことは言うまでもありません。
労働力人口の中で中堅の人材や若い人材が減少し続ける時代、高齢者や主婦などの短時間労働者で補わなければ人材の確保が難しい時代がそこまで迫っています。すでに労働力人口は変わらなくても、労働投入量は減る局面に入っていることが危惧されます。先日も某法人の経営職・管理職対象の研修会で参加者に伝えましたが、自分たちの業務の棚卸を行い、短時間勤務の高齢者などでもできる仕事と専門職でなければできない仕事を整理し、高齢者などに仕事を一部シフトしていく必要があります。
すなわち、今後は、医師の分業だけでなく、あらゆる業務の分業を検討し、人材の確保を考えていかなければならないのではないでしょうか。今こそ、バベッジの言葉を思い出し、人材を確保し生産性を上げつつ、人件費を抑制していくことを、医療機関の人事担当者が中心となって取り組むべき時だと考えます。


【2024. 11. 1 Vol.603 医業情報ダイジェスト】