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回復期リハビリテーション病棟における運動器リハの都道府県審査格差

アウトカム評価と“いいとこ取り”は表裏一体
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■レセプト審査基準の都道府県格差は歴然

仕事で全国行脚が多いが、診療報酬点数は東京23区内でも、へき地や離島においても一部のへき地関係点数要件を除いて全国一律である。一方、都道府県格差が大きいのはレセプト審査支払機関の査定減点における審査基準だ。さらに同じ都道府県内でも社会保険支払基金(社保)と国保連合会で違う場合も多いのだからややこしい。とくに顕著なのは救急医療管理加算と回復期リハビリ病棟における運動器リハビリの患者1人1日当たり上限単位数だ。救急医療管理加算は 「緊急に入院を必要とする重症患者に対して救急医療が行われた場合に、入院した日から起算して7日に限り算定」 する点数だが、一般病床100床あたりの都道府県別算定件数をNDB(電子レセプト)データから比較すると明らかに 「東高西低」 であり、とくに南九州の宮崎、熊本、鹿児島あたりの審査は厳しいために算定件数が少なくなっている。

回復期リハビリ病棟における運動器リハビリの患者1人1日当たり上限単位数は、6単位までしか認めないところと、9単位まで認めるところに二分されていた。6単位上限の県に所在する病院の医事課長は9単位まで認める隣県の審査支払機関にレセプト提出したいと言っていた。もちろん、そんな 「ふるさと納税」 的なレセプト提出はできない。

■アウトカム評価と“いいとこ取り”は表裏一体

2024年改定の入院料において最も減収額割合が大きいのは、回復期リハビリ病棟入院料1で専従医師を評価した 「体制強化加算1」 (100点/日)の廃止と 「運動器リハビリ料1」 (185点/1単位)の提供単位数上限が9単位から6単位に引き下げられた影響であろう。

回復期リハビリ病棟の体制強化加算の廃止理由は改定内容を議論する中医協総会において、支払側が加算未届出病院と届出病院間で入院患者のADL(日常生活動作)を評価するFIM指標に大きな差がないと指摘したからである。しかし、ゴッドハンドと呼ばれるスーパー心臓血管外科医等の分野とは違い、チーム医療が主体の回復期リハビリ病棟において、その医師がいるからFIMが大きく違うというスーパーリハビリ医はあまりいないと思われる。

アメリカの医療経済学者ドナベディアンによる医療の質を評価する三要素の 「構造」 (structure)、 「過程」 (process)、 「結果」 (out come)を回復期リハビリ病棟に当てはめると、ストラクチャがPT、OT、STというリハビリセラピスト人数になる。体制強化加算のリハビリ医師もストラクチャであり、プロセスが患者1人1日当たりのリハビリ単位数、アウトカムは 「実績指数」 (FIM)になるわけだ。今回の体制強化加算廃止は中医協で支払側の主張をそのままアウトカム評価と強引に結びつけた感が否めない。リハビリのアウトカムは年齢、疾患、状態等によって大きく違ってくるし、現在、施設基準として導入されている退院時のFIM実績指数も、あまりに要件強化すると回復する患者さんしか受け入れないという 「クリーム・スキミング」 (いいとこ取り)発生の危惧があるために、拡大には厚労省も慎重である。

■ 回復期リハビリ病棟協会が都道府県別6単位以上提供割合を公開

回復期リハビリ病棟は前述の病院のように、そもそも6単位上限で、かつ体制強化加算も届出していなかった病院は入院料が患者1人1日100点アップしたためにプラス改定になるわけだ。6単位超のリハビリについては疑義解釈(その1)の問111で回復期リハビリ病棟の運動器リハビリであっても 「(答)特掲診療料の施設基準等の別表第九の三の他の要件に該当する患者については1日9単位を算定できる」 とされた。
これは 「脳血管疾患等の患者のうちで発症後60日以内のもの」  「入院中の患者であって、その入院する病棟等において早期歩行、ADLの自立等を目的」 に該当した場合だが、算定できるルールと社保や国保の審査支払機関における査定減点ルールは違うので注意が必要だ。そもそも保険請求は算定できるルールに従って行うのが原理原則である。

都道府県別の運動器リハビリについては、日経ヘルスケア2024年5月号P46において回復期リハビリ病棟協会の宮井一郎副会長が同協会調査の 「都道府県別に見た運動器リハビリの1日当たり6単位以上提供割合(1100病棟、2023年度)」 というグラフを示している。それによると6単位以上を100%認めているのは栃木県、83.3%が大分県、81.8%が富山県となっており、逆に0%が島根県、山口県、宮崎県であり、全国平均は45.1%である。

筆者も以前から都道府県格差はクライアント病院の状況から感じていたが、まさか、これほど違うとは思っていなかった。救急医療管理加算もそうだが、都道府県審査格差のデータ公開は非常にセンシティブである。公開によって低い(厳しい)県が高い(緩い)県の審査基準にもっていくならば良いが、その逆になるケースが多いからだ。いずれにしても、方言のごとく、レセプトの都道府県審査格差は歴然としてあるのは事実だ。


【2024. 6. 1 Vol.593 医業情報ダイジェスト】