組織・人材育成

長時間労働の是正と時間外労働の事前申請

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社ToDoビズ 代表取締役 篠塚 功
高市早苗氏が憲政史上初めて女性の内閣総理大臣に就任しました。新総理は就任直後、厚生労働大臣に対し、労働時間規制の緩和を検討するよう指示を出したとの報道が流れました。今までの動きと逆行するようにも思いますが、前提として、 「心身の健康維持」 と 「従業員の選択」 を挙げていることから、単純に時間外労働を増やすことでもな いようには感じます。このような中、先日、時間外労働の事前申請についてお問い合わせをいただきました。働き方改革の中で、事前申請が一般的と思っていましたが、いくつかの病院に確認したところ、事後申請とのことで、参考事例があまり手に入りませんでした。そのため、厚生労働省が定めた 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚労省ガイドライン)」 等を読み返し、医療機関における時間外勤務申請・承認手順書を作成しました。
時間外労働の削減は、労働者にとっては心身の健康維持のために必要ですが、経営や組織運営の面からは、生産性向上につながるというメリットがあります。そこで今回は、長時間労働の是正と生産性向上を目指し、医療機関の時間外労働の事前申請について考えます。

時間外労働削減に向けた時間外労働の事前申請について

厚労省ガイドラインでは、労働時間とは、 「使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」 としています。なお、このガイドラインには、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすることとあります。サービス残業が当たり前の組織風土では、職員の健康維持も生産性向上も望めませんから、まずは、そのような風土は一掃しなければなりません。そのためにも、管理者は、部下の実際の労働時間を毎日把握すべきなのは言うまでもありません。そして、時間外労働の内容についても、しっかりと把握し、不要な時間外労働は、以後行わないような指導も行うべきです。
自分の昔の職務行動を反省すると、時間外労働を申請しないことを前提に、終業時間を気にせず働いたことが、自らの成長を妨げていたように思います。時間を決めて働くからこそ、効率性を高める工夫や知恵が生まれ、能力も高まるのではないでしょうか。
したがって、まずは、決められた就業時間の中で必ず仕事を終わらせるという意識を職員が持てる組織風土を醸成することが、創意工夫を生み出し、生産性を高めることになると考えます。このような組織を作るための第一歩が、時間外労働の事前申請を徹底することです。某法人の申請書の主な内容を紹介すると、申請書の名称は 「時間外命令書」 であり、記入欄は左から、上司命令印、日、曜日、開始時間と終了時間、業務内容、実開始時間と実終了時間、上司確認印となっています。本人が業務内容等を記載し上司に確認を取るわけですが、上司は、その時間外労働が必要と判断した場合、上司命令印を押して、時間外労働を命じます。そして、翌日、実際の時間外労働の時間を確認して、上司確認印を押すという流れになります。

事前申請運用のための手順書の作成と周知

時間外労働の事前申請の仕組みを整えても、各管理者が、それを運用できなければ意味がありません。医療機関の場合には、急変対応など事前申請が困難な場合があるため、なし崩しに事後申請になりがちです。それを防ぐためには、事前申請を進める際に、時間外勤務申請・承認手順書を作成して、文書で職員に周知すべきでしょう。先日試しに作成した手順書の主な内容をご紹介すると、項目としては、目的、適用範囲、申請手順、承認手順、 勤務実施、事後申請(例外対応)、対象業務の明確化、記録・保存・分析、教育・周知、承認フローとしました。
適用範囲は、医師も含め全職員です。承認手順としては、 「①所属長は業務の必要性を確認し、承認または却下を判断する。②不要と判断した場合は、翌日以降に回す・他職員に分担するなど調整を行う」 としました。上司が、部下の仕事の配分等を考え調整することで、時間外労働を回避させていくことが生産性を高めることにつながります。例外対応としては、急変対応や緊急入院など、事前申請が困難な場合は、勤務終了後に速やかに申請するようにしました。医療機関の場合、例外は認めつつ速やかに事後報告させることが実務的です。対象業務も明確にし、自主的な勉強会・学会活動は時間外勤務として認めないことを明記しました。
なお、職員に説明する際には、手順書の内容に加え、良い申請理由と不十分な申請理由を図に示し周知すると、上司が判断しやすい申請内容が記載されることが期待でき、本人も具体的に書くことで、時間外でやるべき業務か否かを自ら認識できるようになると考えます。


【2025年11月15日号 Vol.14 メディカル・マネジメント】