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税理士の視点から見た調剤薬局M&A

【新連載】 薬剤師 × 税理士の薬局経営教室
アシタエ税理士法人 税理士・ 薬剤師・認定登録医業経営コンサルタント 市川 秀
はじめまして、調剤薬局専門税理士の市川です。今回から 「薬剤師 × 税理士の薬局経営教室」 を連載することになりました。

仕事上、私は普段から様々な薬局経営者の方々とお話しする機会があります。今後の連載は、そんな薬局経営者の方々とお話ししている内容などをお伝えしてまいります。まず、第1回は調剤薬局のM&Aについてです。

調剤薬局業界がM&Aの多い理由

調剤薬局を経営する上で、M& Aという話は身近なものになっているかと思います。よくFAXで 「薬局を売りませんか?」 や 「事業承継先を探していませんか?」 などといった案内が届いたり、同じ経営者の仲間内で 「あそこはM&Aでどんどん事業拡大をしている」 といった話を耳にすることがあるでしょう。ただ、これって実は他の業種にはあまりない、薬局業界ならではのものだったりします。

調剤薬局の多く…特に門前薬局は、非常にM&Aしやすい特性を持っています。薬局の顧客は、薬局そのものの立地や信頼性に依存しているため、経営層が変わってもビジネスが継続しやすいのです。そのため、調剤薬局はたとえ小さな店舗であっても売買がされており、非常にM&Aが活発な市場であると見られています。また、薬局の事業モデルが安定していることも一因です。医療費は国の予算で賄われ、景気の変動に左右されにくい収益構造を持っているため、投資対象としての魅力も高いのです。

さらに、調剤薬局業界では事業承継が大きな課題となっています。高齢化が進むなか、後継者不足に悩む経営者が増えており、M&Aは事業を継続するための一つの解決策となっています。これらの要因が重なり、調剤薬局業界では他業界と比較しても類を見ないほどM&Aが多いのです。

企業価値の算定方法

経営者の方々の関心どころは、おそらく 「薬局の適正な価格」 でしょう。自社を仮に手放した場合、または今後事業を伸ばしていく上でM&Aを活用する場合に、一体いくらを見積もったらいいのか――、そんなご相談をよく顧問先の方々から受けています。まず、M&Aにおける価格算定方法について紹介いたします。

価格算定方法は大きく分けて3つあります。マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチです。これらにはそれぞれ、メリット・デメリットが存在します。

  1. マーケットアプローチ・・・同業他社の取引価格を参考にして企業価値を算定する方法です。同業他社の取引データを収集し、比較対象とすることで、自社の市場価値を把握します。この方法のメリットは、現在の市場動向を反映しやすい点です。デメリットとしては、適切な比較対象が少ない場合、正確な評価が難しいことが挙げられます。
  2. インカムアプローチ・・・将来の収益を基に企業価値を算定する方法です。DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法が代表的で、将来予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。この方法のメリットは、企業の将来性を反映できる点です。デメリットとしては、将来の予測が不確実であるため、評価が主観的になりやすいことです。
  3. コストアプローチ・・・企業が保有する資産の価値を基に企業価値を算定する方法です。再調達コストや簿価を考慮して評価を行います。この方法のメリットは、資産の実際の価値を反映しやすい点です。デメリットとしては、企業の収益性や将来性を評価に反映しにくいことです。
表:各算定方法のメリット・デメリット



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【2024.7月号 Vol.338 保険薬局情報ダイジェスト】