保険薬局
組織文化と価値観のすり合わせ
薬局経営に求められる組織開発
株式会社pharmake 代表取締役社長 田口 恵実
なぜ薬局に文化と価値観が必要なのか
調剤薬局は患者さん一人ひとりの生活に寄り添う場でありながら、同時にスピードや正確性も求められる現場です。薬剤師やスタッフそれぞれが 「自分はこうすべき」 と思う基準を持っていますが、それがバラバラのまま積み重なると、業務の進め方や患者対応にズレが生じます。たとえば 「忙しいときに患者さんへの声かけをどうするか」 「確認にどの程度の時間をかけるか」 といった判断が、スタッフごとに異なっているとチーム内に小さな摩擦が生まれます。だからこそ、薬局全体としての価値観を明確にし、共有することが大切です。文化とは、日々の判断を支える 「暗黙の基準」 であり、それがそろっているかどうかで薬局の雰囲気や患者さんの安心感は大きく変わります。
個人の価値観と薬局の方向性をつなぐ
薬剤師はそれぞれの経験やキャリアを通じて大切にしているものが異なります。 「安全性を最優先したい」 「患者さんとの会話を深めたい」 「効率を高めてチームを支えたい」 。いずれも尊い価値観ですが、薬局全体としての方向性と調和していなければ、本人はやりづらさを感じ、周囲も戸惑うことになります。
ここで必要なのが、価値観のすり合わせです。管理薬剤師とスタッフの面談、チームでの振り返りミーティングなどを通じて、 「自分はなぜこの行動を大切にしているのか」 「薬局として何を優先していきたいのか」 を語り合うことが、個人と組織を橋渡しします。価値観を押しつけるのではなく、相互に理解しながら共通の軸を見いだすことが重要です。
ここで必要なのが、価値観のすり合わせです。管理薬剤師とスタッフの面談、チームでの振り返りミーティングなどを通じて、 「自分はなぜこの行動を大切にしているのか」 「薬局として何を優先していきたいのか」 を語り合うことが、個人と組織を橋渡しします。価値観を押しつけるのではなく、相互に理解しながら共通の軸を見いだすことが重要です。
価値観のズレが起こりやすい場面
調剤薬局で価値観の違いが表れやすいのは、日常のちょっとした判断です。たとえば 「待っている患者さんが多いときに、どこまで丁寧に服薬指導をするのか」 「在宅業務に時間を割くことで、店舗の調剤体制が手薄になるのではないか」 といった場面です。どちらも間違いではありませんが、基準が人によって異なるとスタッフ間の温度差や不満につながります。だからこそ、薬局全体で 「私たちはこういうときにどう考えるのか」 を話し合い、価値観を共有しておく必要があります。
日常のエピソードが文化をつくる
「文化を大事にしよう」 と言っても、抽象的な言葉だけでは根づきません。むしろ日常で起こった具体的なエピソードこそが文化を形づくります。ある薬局では 「忙しくても患者さんに必ず一言を添える」 という行動が共有されています。これは上からの指示ではなく、スタッフ同士が 「こうしたら患者さんが安心してくださった」 という体験を話し合う中で合言葉のように定着したそうです。
文化は小さな体験の積み重ねと、それを言葉にして共有する習慣から生まれます。日々の振り返りで 「今日の行動の背景にどんな価値観があったのか」 を確認することが、文化を強くしていくのではないでしょうか。
文化は小さな体験の積み重ねと、それを言葉にして共有する習慣から生まれます。日々の振り返りで 「今日の行動の背景にどんな価値観があったのか」 を確認することが、文化を強くしていくのではないでしょうか。
すり合わせを続けること自体が文化になる
価値観は固定されたものではなく、時代や地域の変化に応じて見直す必要があります。診療報酬改定のたびに 「私たちはどうあるべきか」 と問い直すことを求められ、数年前までは 「効率最優先」 が暗黙の文化だった薬局が、今では 「患者との関係性を重視する」 方向へ変化している例もあります。重要なのは、一度決めた文化を守り続けることではなく、定期的に問い直し、すり合わせ続ける姿勢です。そのプロセス自体が 「私たちの薬局は常に価値観を確かめ合う文化を持っている」 という証になります。変化に対応しながらも一貫した安心感を提供できる薬局は、スタッフにとっても働きやすく、患者さんにとっても信頼できる場となるのではないでしょうか。
リーダーは文化の体現者
価値観のすり合わせにおいて、管理薬剤師やリーダーの果たす役割は大きなものです。リーダーが何を口にし、どう行動するかが、そのまま薬局の基準になります。 「忙しいから患者対応は後回しでいい」 と言えばそれが文化になり、 「どんなに忙しくても一声をかけよう」 と行動すればそれが文化になります。つまりリーダーは文化を体現する存在であり、日常のふるまいが組織全体の方向性を決めるのです。自分自身の価値観を言語化し、それをスタッフと共有することが、薬局全体の文化を健全に育てることにつながります。
おわりに
薬局における組織文化と価値観のすり合わせは、スローガンを掲げることではありません。スタッフ一人ひとりの思いや行動の背景を語り合い、互いに理解し、時に見直す。その積み重ねが 「この薬局らしさ」 をつくり、患者さんからの信頼へとつながります。そして、 「価値観をすり合わせ続ける営み」 そのものが、薬局を未来に向けて強くしていくのです。
来月は 「評価とフィードバックの在り方」 をテーマに、日々の業務をどう成長につなげていけるかを掘り下げていきます。
【2025年10月号 Vol.6 Pharmacy-Management 】
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