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医療法人の有価証券投資について考える

「確実な有価証券」の定義に悩まされる医療法人
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
最近では、米国を中心とした株式市場に加え、日本国内の株式市場も好況で、株価も上昇傾向にあります。今年から新しいNISAが導入され、個人レベルでも資産形成の方法の一つとして投資という選択肢が広がりつつあります。
一方で、投資拡大の流れに乗れないのが非営利法人ではないでしょうか。ただ、非営利法人と言っても学校法人や公益法人などの非営利法人では有価証券運用が認められていますが、読者の中で最も多いと考えられる医療法人では資金運用については厳しい取り扱いとなっています。
最近では、このような市場の流れを受け、医療法人等からも「何らかの方法で資金を運用したいと考えているが、認められる方法はないのか」といった相談を多く受けます。

今回は、医療法人の有価証券投資について考えてみたいと思います。

「確実な有価証券」の定義に悩まされる医療法人

医療法人の有価証券保有に関する法的規制はありません。しかし、厚生労働省が公表する「医療法人運営管理指導要綱」(いわゆるモデル定款)が医療法人の有価証券運用を実質的に制限している形となります。モデル定款では、「資産のうち現金は、医業経営の実施のため確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管する」とされています。この「確実な」有価証券の解釈が論点になってきます。

「確実な有価証券」の範囲

「確実な有価証券」とはどの範囲を指すのか。医療法人が有価証券の購入を進めるにあたり、「国債・地方債」のように明記されていれば話は簡単ですが、明確な基準がないため、医療法人間での解釈に幅が生じているのが現状です。私見としては、少なくとも「国債や地方債」と同レベルの安全性や確実性が要件となっていると考えています。参考までに、公立病院でも地方独立行政法人として運営している法人においては、国債、地方債及び政府保証債等に限って運用が認められています。

株式・投資信託、外貨建て債券の購入は可能か

株式や投資信託には元本割れのリスクがあり、債券であっても外貨建て債券は為替変動のリスクがあることを考慮しなければなりません。
特に、株式に関しては上述の「医療法人運営管理指導要綱」に、「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと」と明確に記載されています。また、医療法人は非営利であることが医療法で求められており、厚生労働省も一般的な非営利法人制度として「株式等を保有する営利企業の全株式の2分の1を超える株式等の保有を行ってはならない」と記載しています(厚生労働省「医業経営の非営利性等に関する検討会」資料より)。この点から、厚生労働省は売買目的や支配目的での有価証券取得は認めていないことが読み取れます。

医療法人が有価証券を保有するためには

上述の通り、「確実な有価証券」の定義には様々な解釈が可能なため、法人の解釈が結果として定款違反となってしまうことを防止するには、有価証券購入時には事前に医療法人を管轄する都道府県の意見を確認することが望まれます。
また、ガバナンスの整備として、運用資産、運用対象、格付け評価、運用期間、運用報告ルール等を明確にした資金運用管理規程を作成する、有価証券の売買については常に理事会決議を経ることとするなど、法人として有価証券運用方針や運用体制の整備運用が必要です。

多様化する資金運用

個人的な経験としても、医療法人が有価証券を保有することについて、都道府県から指導を受けたり、社会医療法人化の申請時に指摘を受けたりした経験があり、有価証券投資に対しては非営利性を確保するために厳しい目が向けられていると感じています。
一方、最近では、保険商品でも役員退職金確保等のために一部損金算入が可能となる従来から用意されている保険商品だけではなく、資産運用がメインともとれる保険商品も開発されています。有価証券投資に対しては厳しくとも、保険商品としてリスク資産を医療法人が持つことに関しては少しグレーな部分が残っているのではないかとも感じています。退職金として外部積立を行う場合でもリスク資産への運用がなされているケースもあり、これらについては、今後どのような流れになっていくのか注視していきたいと思います。


【2024. 4. 1 Vol.589 医業情報ダイジェスト】