病院
改定のたびに点数引き上げになる医師事務作業補助体制加算
医師には医師免許がなければできない仕事に専念してもらう
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高■医師には医師免許がなければできない仕事に専念してもらう
2022年度診療報酬改定の基本的視点における二つ目の重点課題が「安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進」であり、その「具体的方向性の例」として、「タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進」が掲げられている。2024年4月から施行予定の「医師の働き方改革」ではすべての勤務医に新たな時間外労働の上限規制が適用される。ただし、民間病院は大学病院からの非常勤医師引き上げ危惧など医療現場における課題は多い。医師の労働時間短縮に直接効果があるのはタスクシフト(業務の移管)である。それを評価したのが「医師事務作業補助体制加算」であり、勤務医不足による医師の過重労働を改善するために、2008年度診療報酬改定で新設された。
医師の業務負担軽減の根本的解決法は医師数を増やすことだが、それができたらどこの病院も苦労しない。とくに慢性医師不足に悩む地方の病院ほど難しい。たとえば消化器内科医が診断書作成に半日費やしていたとする。それを医師事務作業補助者へシフトすることで、医師の残業時間減や代わりに内視鏡検査業務を半日行うことが可能になる。厚労省による医師業務のタイムスタディ調査では2割ほど代替可能な事務作業をしていると報告された。それを医師事務が代行して、医師には医師免許がなければできない診察や検査、手術等に専念してもらうことが病院全体の労働生産性向上につながるという考えに基づくのが医師事務作業補助体制加算である。
医師の業務負担軽減の根本的解決法は医師数を増やすことだが、それができたらどこの病院も苦労しない。とくに慢性医師不足に悩む地方の病院ほど難しい。たとえば消化器内科医が診断書作成に半日費やしていたとする。それを医師事務作業補助者へシフトすることで、医師の残業時間減や代わりに内視鏡検査業務を半日行うことが可能になる。厚労省による医師業務のタイムスタディ調査では2割ほど代替可能な事務作業をしていると報告された。それを医師事務が代行して、医師には医師免許がなければできない診察や検査、手術等に専念してもらうことが病院全体の労働生産性向上につながるという考えに基づくのが医師事務作業補助体制加算である。
■2022年改定において経験3年以上5割で2区分へ
2008年に医師事務作業補助体制加算が創設されてから、ほぼ改定の度に点数は大きく引き上げられている。図1のように加算1の15対1は改定前の970点から1050点へ、20対1は758点から835点へアップした。今回も2024年度から始まる医師の時間外労働規制の対応に向けて、作業補助者の雇用促進などの体制強化に向けた増点が求められていたからだ。
現在の最高ランクは15対1であるが、2008年に同加算ができた当時は25対1配置が最高で355点であった。2022年改定で医師事務1の25対1は705点なので約2倍になっている。2022年診療報酬改定率は診療報酬本体+0.43%だが、薬価、医療材料引き下げ分▲1.37%を差し引くと全体(ネット)では▲0.94%と2016年から4回連続でマイナス改定となった。改定率は物価が下がる「デフレーション状態」なのに対して、医師事務の評価だけは倍近くアップしているため、物価が上がる「インフレーション状態」と言えよう。
今回の改定で、同加算1では当該保険医療機関で3年以上の実務経験がある補助者を配置区分ごとに5割以上配置することが義務化された。理由は経験年数が上がれば、医師の負担軽減への貢献度が高いというデータが中医協で示されたからだ。なお、他院での実務経験は3年には加算されないため、どんなベテランでも転職先病院では経験1年目からのスタートとなる。医師や看護師の施設基準上における経験期間は、他院でも加味されるものが大半なのに医師事務だけは違うのは腑に落ちない。
現在の最高ランクは15対1であるが、2008年に同加算ができた当時は25対1配置が最高で355点であった。2022年改定で医師事務1の25対1は705点なので約2倍になっている。2022年診療報酬改定率は診療報酬本体+0.43%だが、薬価、医療材料引き下げ分▲1.37%を差し引くと全体(ネット)では▲0.94%と2016年から4回連続でマイナス改定となった。改定率は物価が下がる「デフレーション状態」なのに対して、医師事務の評価だけは倍近くアップしているため、物価が上がる「インフレーション状態」と言えよう。
今回の改定で、同加算1では当該保険医療機関で3年以上の実務経験がある補助者を配置区分ごとに5割以上配置することが義務化された。理由は経験年数が上がれば、医師の負担軽減への貢献度が高いというデータが中医協で示されたからだ。なお、他院での実務経験は3年には加算されないため、どんなベテランでも転職先病院では経験1年目からのスタートとなる。医師や看護師の施設基準上における経験期間は、他院でも加味されるものが大半なのに医師事務だけは違うのは腑に落ちない。
■医師事務の診療報酬はそのまま「利益」(純益)と考えようが持論
医師事務作業補助体制加算はDPC病院では出来高点数ではなく、病院の施設基準関連を評価した「機能評価係数Ⅰ」になる。表1はA病院(270床)の医師事務収入シミュレーションである。同院は年間救急車件数5,000件強、1日入院単価8万円弱であり、人員配置が最も高い15対1の同加算1(機能評価係数Ⅰ0.0365)を届出している。③年間のDPC係数前包括収入17億円×0.0365で6,205万円の保険収入となる。同院の医師事務作業補助者の④平均年俸350万円に270床での④配置人数18人以上を乗じると⑤6,300万円となる。配置人数は「270床÷15=18人」で計算されて、「③-⑤」で年間95万円のマイナスとなる。なお、同院が15対1よりも低い配置人数である20対1以降は保険収入が人件費総額を上回る。
ならばA病院は、95万円の減収となる15対1ではなく、増収47万円となる20対1を届出すべきであろうか。そうではない。同加算を届出しない理由として、診療報酬だけでは医師事務人件費を賄えないことを挙げる病院は少なくない。いまだに「歩く損益計算書」的な管理者は「医師事務診療報酬収入―医師事務人件費=収支差」で計算をする傾向がある。もし、収支差がマイナスであったとしても、医師(病院)の労働生産性向上につながるならば医師事務は必須である。
「収支差」ではなく、「医師事務の診療報酬はそのまま『利益』(純益)と考えよう」が持論である。急性期病院のコロナ禍前における医業利益率は平均1〜2%程度と大変に厳しい状態であり、コロナパンデミックでさらに悪化している病院が多い。たとえば年間収入10億円の病院で医業利益率1%ということは1000万円の利益になる。医師事務の1000万円の診療報酬収入を利益(真水の収入)と考えると、病院全体ではあと10億円の追加売り上げ、つまり、20億円の売り上げが必要となる。そもそも他の事務職である医事課職員や総務課職員には点数はついていない。医師事務にはついている。そして、医師の負担軽減で病院全体の労働生産性向上につながれば、これほど効果的なことはない(詳細はNPO法人 日本医師事務作業補助研究会会報2021年VOL.15 で筆者インタビューをご参照 弊社HP http://m-m-office.comに掲載)。
医事課職員や病棟・外来クラークには点数はついていないから配置しないという病院はないだろう。つまり、医師事務の人件費は「費用」ではなく、医師の労働生産性アップのための「原価」と考えるべきだ。ゆえに診療報酬と人件費差し引き計算は間違いとなるわけだ。さらに言えば医師事務機能充実を図らないで、働き方改革に対して後ろ向きな病院は医師からの就職先プライオリティ(優先順位)は低くなるであろう。
【2022. 5. 15 Vol.544 医業情報ダイジェスト】
ならばA病院は、95万円の減収となる15対1ではなく、増収47万円となる20対1を届出すべきであろうか。そうではない。同加算を届出しない理由として、診療報酬だけでは医師事務人件費を賄えないことを挙げる病院は少なくない。いまだに「歩く損益計算書」的な管理者は「医師事務診療報酬収入―医師事務人件費=収支差」で計算をする傾向がある。もし、収支差がマイナスであったとしても、医師(病院)の労働生産性向上につながるならば医師事務は必須である。
「収支差」ではなく、「医師事務の診療報酬はそのまま『利益』(純益)と考えよう」が持論である。急性期病院のコロナ禍前における医業利益率は平均1〜2%程度と大変に厳しい状態であり、コロナパンデミックでさらに悪化している病院が多い。たとえば年間収入10億円の病院で医業利益率1%ということは1000万円の利益になる。医師事務の1000万円の診療報酬収入を利益(真水の収入)と考えると、病院全体ではあと10億円の追加売り上げ、つまり、20億円の売り上げが必要となる。そもそも他の事務職である医事課職員や総務課職員には点数はついていない。医師事務にはついている。そして、医師の負担軽減で病院全体の労働生産性向上につながれば、これほど効果的なことはない(詳細はNPO法人 日本医師事務作業補助研究会会報2021年VOL.15 で筆者インタビューをご参照 弊社HP http://m-m-office.comに掲載)。
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