組織・人材育成

ハローワーク求人票から読み解く ―医療機関の賃金水準と採用力の点検―

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社ToDoビズ 代表取締役 篠塚 功
医療機関における職員の採用と定着を検討する際、自院の賃金水準を定期的に把握することは重要です。特に看護師など主要職種の賃金をプロットし、他院と同程度の水準であるかどうかは、最低限確認すべきポイントと言えます。他の医療機関と比べて著し く低い賃金で職員を雇用している場合、外部から見て公正な待遇とは言い難く、職員の定着にも悪影響を及ぼす可能性があります。
人事制度のコンサルティングに携わる中で、賃金水準の把握には統計データの活用が有効である一方で、全国平均や都道府県単位の数値だけの比較分析では、地域の実情を十分に反映できない場面も多く見受けられます。そこで、より実態に即した比較の手段として、近隣の医療機関がハローワークに提出している求人票の情報を収集・分析し、地域内での賃金水準や採用力を把握する方法を提案しています。
ハローワークの求人票は、記載ルールが明確で、法令に基づいて作成されているため、分析対象として一定の信頼性があります。今回は、この求人票の情報をもとに、医療機関が自院の改善点を見出すために、どのような視点で整理・比較を行うべきか、考察します。

求人票から抽出する主な情報

ハローワークの求人票から抽出して比較する主な項目を、下記の表に整理しました(数値は実際のものではありません)。賃金水準の確認が主目的であるため、基本給と定額的に支払われる手当の比較が中心となります。また、賞与月数には医療機関ごとに 大きな差があるため、基本給・月額計・賞与月数をもとに想定年収を算出し、比較を行うことが有効です。想定年収は、「(月額計 × 12カ月)+(基本給 × 賞与月数)」で算出します。
そのほかに、「施設名」 「就業場所」 「職員数」 「昇給率」 「求人年齢」 「定額的に支払われる手当の名称と金額」 「その他手当の名称と金額」 なども抽出し、比較対象とします。職種ごとに調査を行い、1職種25法人程度と比較できると、自院の賃金における採用力の位置づけが見えてきます。自院が所在する市内に加え、周辺の10市町村程度を調べれば、25法人分の求人情報は十分に収集可能でしょう。
たとえば、自院の基本給の下限額が何番目に位置するのか、上限額では何番目か、さらに月額計の下限・上限の順位を確認することで、採用面における賃金の優位性や課題が明確になります。また、想定年収の下限・上限における順位を確認することも、自院の強みや改善余地の把握に役立ちます。
職員数を確認すれば法人の規模感がつかめますし、昇給率の記載から昇給査定の有無を推測することもできます。定額的に支払われる手当やその他手当の名称・金額を確認することで、手当の実態や傾向も見えてきます。さらに、求人年齢が 「64歳以下」 となっていれば、65歳定年制を採用していることが読み取れます。このように、ハローワークの求人票には、医療機関の人事担当者が把握しておくべき情報が数多く含まれています。単に金額を比較するだけでなく、各求人票を丁寧に読み解くことで、各医療機関の処遇に対する考え方や制度運用の実態を知る手がかりとなるでしょう。

年間休日数と採用力

50法人の医療機関の求人票を調査したところ、年間休日数の最小は84日(1病院)、次に少ないのが99日(1病院)で、100日未満はこの2病院のみ。最多は131日で、平均は114日でした。現在も土曜半日勤務を続ける病院では、休日数が80日台にとどまるケースがあります。なお、休日は0時から24時まで勤務のない日を指すため、土曜半日勤務は休日に含まれません。
表の 「自院」 は年間休日数84日で、最も少ない日数です。賃金が高くても、休日数が少なければ採用力は下がります。副業や自己研鑽を重視する若年層にとって、完全週休2日制は就職先選びの前提条件になりつつあります。
また、休日が少ない場合は、年間所定内労働時間も確認が必要です。たとえば月10時間長いと、最低賃金1,121円(令和7年平均)の場合、月例給の最低額は11,210円高くなります。採用力と最低賃金対策の両面から、休日数や労働時間の見直しが求められる医療機関もあると考えられます。
求人票の情報を丁寧に読み解くことで、自院の処遇の現状と改善の方向性が見えてきます。採用力を高めるためにも、定期的な点検と見直しを習慣化していくことが重要です。


表:ハローワークの求人票から抽出して比較する主な項目(単位:円)


【2026年2月1日号 Vol.19 メディカル・マネジメント】