診療所

しくじり体験記から学ぶ院内マネージメント②

スタッフとの関係の質を上げるために
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦
前回に引き続き弊社クライアント様のA整形外科クリニック院長のA先生に許可を得て「しくじり体験記から学ぶ院内マネージメント②」をお伝えします。今回はA先生の院内改革の内容を具体的にお伝えします。A院長よろしくお願いします。

〇スタッフとの関係の質を上げるために

前回、お伝えした組織の循環モデルにあるとおり、スタッフとの「関係の質」の大切さを理解せずに「結果の質」だけを求めていると、スタッフと信頼関係を築くことができず、どんなに努力しても組織として結果を出せない状況に陥ります。結果を求めるならば、まずは「関係の質」の向上を意識する必要があります。
当院が実践したことは、褒める・認める・感謝する・労う・励ます、笑顔、信頼する、任せるなど承認することの徹底です。具体的には下記3つが機能しています。

①あいさつ/感謝を伝える
職場の雰囲気が悪い時に退職するスタッフから、「院長は気分にムラがあるので院長の顔色ばかりみて仕事をしている自分が嫌になった」「院長の気に入ったスタッフへの対応と私への対応はまったく違う。私には返事もしてくれない。私はぞんざいに扱われている」など、院長の私に対する不満がたくさんあったことが、コンサルタントのヒアリングでわかりました。コンサルタントと相談した結果、院長である私自身が変わらないといけないと気づき、最初に着手したことは承認と感謝をたくさんスタッフへ伝えることでした。「あかるく・いつも・さきに・つづける」あいさつと返事をとにかく心がけました。

②誕生日プレゼント
スタッフの誕生日にメッセージ付きの花を自宅に送るようにしました。

③給与明細書にメッセージを書く
スタッフ個人の成長や努力していることを承認して感謝する内容のメッセージを給与明細書に一言添えるようにしました。具体的には「〇〇さんの『おはようございます!』という明るい挨拶でいつも元気を貰っています!」「〇〇さんが症例検討会の準備をしてくれたことをとても感謝しています!」など、私自身がスタッフを見て感じたことを書くようにしています。

誕生日や給与明細のメッセージを書くことでスタッフ一人ひとりのことを知ろうという意識が持て、スタッフのことを知ることができました。そして、スタッフのことを知ると、不思議とスタッフの日々の勤務に感謝を持てるようになれたことが私にとっては大きな収穫でした。最近ではスタッフからも感謝の言葉を貰えるようになり、私自身の精神状態も良くなり、スタッフとの関係性も少しずつ良くなっていると実感できるようになりました。


〇ミーティングと個別面談の活用

・ミーティング
ミーティングについては、それまでは定期的な連絡のみになっていました。コンサルタントからミーティングの定義を明確にするよう指導されたので、当院のミーティングの定義を下記のように決めました。

<当院のミーティングの定義>
A整形外科クリニックのスタッフとして共通の価値感を共有することと共通の議題に対して意見を出し合うことで組織の方向やルールを決めること

共通の価値感の部分では、規律の確認の機会を設けました。これぐらいはいいだろうという小さな違反を放置していたことが職場風土を乱していたので、コンサルタントの力も借りて規律が乱れないよう、ミーティングで必ず規律の乱れの有無をチェックするようにしました。

・個別面談
個人としっかり向き合う個別面談を年3回(年2回の賞与時と昇給時)実施することにしました。当院の個別面談は「立ち止まって一緒に考えること」と定義して、「知る(受けとめる)→整理する→支援する」という手順で行っています。

具体的には下記のような手順で実施しています。
  1. アイスブレイク(安心安全でポジティブな場作り)
  2. 振り返り、フィードバック(院長の期待とのギャップを伝える)
  3. 次回面談までの課題について合意を取り交わす
  4. 最初の一歩と、医院して協力できることは何か?
会話はよくキャッチボールにたとえられますが、院長とスタッフの会話では院長が一方的に投げて終わりとなってしまうケースが散見されます。上記のような面談の型をもつことで、スタッフ全員に期待していることや課題をフィードバックできるようになりました。

一度、クリニックを閉院しようかと思ったぐらい悩みましたが、コンサルタントや外部ブレーンにも協力してもらってこれまでのマネージメントを変革した結果、今ではスタッフと関わるマネージメントの仕事も楽しくなってきました。クリニックを経営する上でマネージメントから逃げることはできません。何よりも私が少しずつ経営者としての行動ができている手応えを感じています。今後もスタッフと向き合っていきたいと思います。

以上、A院長のしくじり体験記から学ぶ院内マネージメントでした。ご参考にして頂ければ幸いです。


【2024. 5. 1 Vol.591 医業情報ダイジェスト】