診療所

専門特化したクリニックの経営のポイントと病診連携の工夫事例

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方の中核都市にて開業3カ月目の泌尿器科クリニックの院長から「患者さんを丁寧に診察することを日々心がけています。コロナ禍の開業でしたが、患者数は少しずつ増えております。ただ、そろそろ借金の元本返済も始まるので患者数をさらに増やしていく必要があります。同じ泌尿器科クリニックの経営のポイントや工夫事例をお教えください」という相談をいただきました。

【回  答】

今回は泌尿器科クリニックの経営のポイントと工夫事例についてお伝えします。

1.泌尿器科の経営のポイント
①泌尿器科のニーズを知る
 泌尿器科は一般的に文字通り「尿」というイメージが強く、受診するのが「恥ずかしい」と思われがちで、毎日行われる排尿に関連する科でありながら一度も受診したことがない人も多いものです。その分悩んでいる人の数も決して少なくありません。また、男性より女性にとって他の診療科と比べて受診のハードルは高くなりますので、男性と女性の待合室や動線を分けるなど、受診のハードルを下げる工夫をして集患につなげましょう。
 泌尿器科を受診される患者さんの多くは高齢者で尿失禁や前立腺肥大症などの疾患で来院される方が多くなっています。高齢化が進む地域では訪問診療のニーズもあるため、訪問診療の取り組みを検討するのもいいと思います。
②収支構造を知る
 泌尿器科の収益構造は他の診療科と同じく下記の公式で成り立ちます。
 「 診療収入 = 1 日当たりの患者数 × 1人1日当たりの診療単価 × 通院回数」
 
 泌尿器科の1人1日当たりの診療単価は院外処方の診療所で約7,500円前後です。
 他の診療科より診療単価は高い傾向にあります。また、通院日数は外来診療中心の泌尿器科では1.5日程度で、他の診療科より短い日数です。
 院長が経営者として知っておくべきことは「毎月の人件費、家賃、リース料などの固定費」「借入金の元本返済」「院長の生活費」を賄うために、1日当たり最低何人の患者をみないといけないか、ということです。
 一般的に、収支分岐点は1日の患者数と言われます。泌尿器科の収支分岐点の1日当たりの患者数は30人前後/日が1つの目安となります。自院の収支分岐点の1日当たりの患者数をぜひ計算してみてください。

2.A泌尿器科の工夫事例
A院長は、人口40,000人の診療圏内に競合診療所が4件あるベットタウンのビル診で、5年前に泌尿器クリニックを開業しました。
 少しでも患者さんにリラックスしてもらえるよう心が落ち着ける空間を意識してハード面を整備しました。さらに患者さんの緊張した気持ちを和ませられるように観葉植物をたくさん置いて、少しでも緑を感じられるようにしているほか、内装も木目調で統一し、温かみのある空間づくりを実現しています。
女性専用の待合スペースを作り、女性の受診のハードルを下げる工夫を施した結果、女性に多い過活動膀胱や尿漏れの女性の患者さんが多く来院しています。

排尿障害・性機能障害・EDについては院長がライフワークとしている診療に力を入れています。そのために、A院長が開業前に勤務していた大学病院と同じような診療クオリティーを確保すべく、院内には充実した検査・治療機器を整え「泌尿器科疾患については当院で完了させたい」という想いで的確な診断、適切な治療を提供しています。

デリケートな相談に対しては遮音された個室を用意し、男性特有の悩みに対応する専用の診療時間を設けるなど受診・相談のしやすさにも配慮しています。また、少しでも患者さんにリラックスしてもらえるよう、スタッフ全員で患者さんとのコミュニケーションを大切にしており、悩みを持つ人にとって頼れる診療所となっています。

女性は尿漏れなどの症状があった場合は婦人科を受診されているケースが多いので、婦人科を標ぼうしているクリニックとの連携を積極的に行っています。内科的な疾患や他の診療科の疾患が見つかれば専門的な医療機関へと迅速に紹介できるよう、病診連携・診診連携のためのシステムづくり、自宅でのケアが必要な場合に備えケアマネジャーとの連携も積極的に図っています。その結果、他院から外来患者の紹介やケアマネジャーから訪問診療の患者さんの紹介が途切れない状況となりました。

上記の事例のように泌尿器科クリニックは受診ハードルを下げることがポイントとなります。また、他科、介護事業者との連携によって来院患者さんを紹介してもらえるシステムは、意外と軽視されがちですが、集患にはもっとも効果的な手法ですのでチャレンジしていただくことをお勧めします。


【2023. 8. 1 Vol.573 医業情報ダイジェスト】