診療所

MS法人設立の是非

MS法人を設立したら節税できるのか?
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で開業7年目の整形外科の院長より「『MS法人を設立したら節税できる!』と先輩から言われました。MS法人とはどんな法人なのか?MS法人を設立する際に検討しておくべきことなどあればお教えください」というご相談を頂きました。

【回 答】

クリニックの院長先生からMS法人の活用についてご相談を頂く機会が増えております。今回はMS法人の目的、運営など注意頂きたい事項をまとめましたのでご参考にして頂きたいと思います。

1.MS法人って?
MS法人とはメディカル・サービス法人の略称で、法律上に明確な基準や制度はありませんが、厚生労働省の資料にも出てくる法人です。また、名前が示すとおり病院やクリニックの医療関連業務や周辺業務を行う目的で設立される会社で、個人開設の病医院、医療法人と密接な関係がある法人を指します。

2.MS法人の事業分野とは?
医療法人のように事業制約のないMS法人ですが、MS法人の事業分野は次の4つに分類されます。

①医療関連事業
クリニックの院長がMS法人に業務を外注することにより、利益をクリニックからMS法人へ出し、所得分散が可能となります。特に医療法人の場合は、医療法第54条で配当を禁止されていますので、MS法人へ利益を移転させ、ファミリーで役員報酬、退職金、少人数私募債など、節税を手段とした所得移転を実現させています。
代表的な取引は受付窓口・経理業務、レセプト業務、清掃業務など業務請負契約や医療機器などの資産の貸付(リース業務)です。

②不動産賃貸管理事業
これまでは、クリニックの利益をMS法人へ出すためにクリニックの建物をMS法人が所有し、クリニックへ賃貸しているケースが主な取引でした。最近では、マンション経営やサービス付高齢者向け住宅を所有し第三者に不動産賃貸事業を行うMS法人も増えつつあります。

③独自事業
美容関連事業や翻訳事業など、院長夫人の得意分野を事業化しているMS法人もあります。また、業績の良い医療法人の院長が経営コンサルタントや講演や研修を自主開催して講演研修活動を事業としているMS法人もあります。医療以外の独自事業は院長ファミリーの所得安定化にもつながりますので、ぜひ、独自事業をつくって頂きたいと思います。

④個人の相続対策と財産運用
個人で所有している有価証券、不動産をMS法人で所有移転させ、相続の対策を実施しているMS法人もあります。独自事業で利益をあげることができれば少人数私募債など個人財産をMS法人で運用することも可能になります。また、逆にバブル期に購入した株式、会員権などを売却して含み損失を確定させれば節税も可能です。

3.MS法人運営の注意事項
MS法人の運営の注意点を下記にまとめましたのでご参考にして頂きたいと思います。

① 節税を目的にした場合はキャッシュフローが悪くなるケースもある
クリニック経営の節税を目的に設立した場合はかえってキャッシュフローが悪くなるケースが発生します。特にMS法人が消費税の納税義務者となる場合が多く、クリニックとMS法人を一つのグループで捉えると消費税分がキャッシュアウトして節税効果が少なるケースがあります。
節税額だけでなく、クリニックとMS法人を一つのグループと捉えキャッシュフローを確認頂くことをお勧めします。

②クリニックとの取引の妥当性を問われる
クリニックとMS法人の取引は同族間の取引なのでお手盛りになるケースがあります。根拠なく取引金額を上げたり下げたりするのは後々、税務調査で問題となる可能性もありますので、第三者の会社と取引する際の価格をベースに相場を逸脱しない範囲で取引金額を決定頂くことをお勧めします。また、取引金額の計算根拠や契約書など物的証拠(エビデンス)をしっかり残し税務調査の際に備えて頂きたいと思います。

③MS法人運営の管理事務の時間とコストが増える
MS法人の実態を明確にするためには管理事務にそれ相当な時間を要しますし、税理士の顧問料など様々なコストが増えます。コストパフォーマンスを十分考慮したうえでMS法人の設立をご検討頂くことをお勧めします。

MS法人の運営は節税を目的とするのではなく手段として用い、クリニックの院長の目的を明確にしてMS法人を運営して頂く事をお勧めします。


【2022. 10. 15 Vol.554 医業情報ダイジェスト】