保険薬局
在宅医療における急性期対応と薬剤師の役割
在宅医療の羅針盤
在宅療養支援診療所薬剤師連絡会 代表理事 在支診薬剤師 大須賀 悠子
1.在宅医療の急性期対応とその課題
高齢者の急性疾患や体調の急変は、在宅医療において避けて通れない課題です。以前もお伝えした通り、高齢者にとって入院はADL低下や認知機能の悪化を招きやすく、可能な限り在宅で治療を継続することが望まれます。しかし、それは適切な対応がなされた場合であって、誰も介入できなければより病状が悪化し、結果的に救急搬送や入院を要することになるわけです。在宅医や訪問看護師が現場で必要な処置を行い、求められたタイミングで適切な薬剤が揃う必要があります。医師・看護師・薬剤師・介護職が連携して対応する必要がありますが、情報共有や役割分担が不十分だと、治療の遅れにつながります。特に、薬剤師の関与が不十分な地域では、適切な薬物療法が行われていないケースも見られます。2024年の訪問看護師への聞き取り調査 *1では、73. 2%の訪問看護師が、 「薬剤・輸液がないことで患者・利用者の急変時に即時対応できなかった経験がある」 と答えており、薬剤師業界全体に対して、必要な措置を講じるべきとの意見がでたことは記憶に新しい出来事です。
一方で、救急医療の逼迫も深刻です。2022年、東京消防庁の救急出動件数は過去最多の87.2万件に達し、そのうち75歳以上の高齢者が約40%を占めました。搬送患者の53%は入院を要しない軽症だったというデータからも、在宅医療にまだ繋がってはいないけれども少しずつ弱ってきている高齢者群に、必要なサポートをどう届けるのかが課題なのだと考えています。在宅医療以前の地域医療の充実も、救急搬送の抑制につながると考えられます。地域でその層にアクセスできる医療職種を考えると、思いつくのは外来の医師か薬局の薬剤師です。どう動けば、地域がうまく回るようにできるでしょうか。
*1) 患者・利用者急変時の薬剤および特定行為に関する緊急調査 ~中途報告~ 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 / 一般社団法人コミュニティヘルス研究機構 山岸暁美 令和5年3月6日
一方で、救急医療の逼迫も深刻です。2022年、東京消防庁の救急出動件数は過去最多の87.2万件に達し、そのうち75歳以上の高齢者が約40%を占めました。搬送患者の53%は入院を要しない軽症だったというデータからも、在宅医療にまだ繋がってはいないけれども少しずつ弱ってきている高齢者群に、必要なサポートをどう届けるのかが課題なのだと考えています。在宅医療以前の地域医療の充実も、救急搬送の抑制につながると考えられます。地域でその層にアクセスできる医療職種を考えると、思いつくのは外来の医師か薬局の薬剤師です。どう動けば、地域がうまく回るようにできるでしょうか。
*1) 患者・利用者急変時の薬剤および特定行為に関する緊急調査 ~中途報告~ 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 / 一般社団法人コミュニティヘルス研究機構 山岸暁美 令和5年3月6日
2.急性期対応における薬剤師の役割と現状の課題
薬剤師の一番大切な役割は、迅速な薬剤提供と服薬指導ではないでしょうか。前述の調査結果において急変時に必要となる薬剤・輸液は、発熱(解熱剤・抗生剤)、疼痛(鎮痛薬・医療用麻薬)、脱水(輸液)などが主な対象であり、特に過疎地域の訪問看護師ほどこれらの症状に対する対応経験が多いことが報告されています。
現在、わたしが勤務する診療所でお世話になっている薬剤師はみな、訪問活動を通じて多職種と連携し、点滴管理や緊急時の薬剤供給などを担ってくれています。しかし、すべての地域でこのような体制が整っているとは言いがたく、多くの地域では訪問薬剤管理指導が十分に行われていないという指摘もあり、これは前述のデータと一致します。その結果、医師や看護師の負担が増し、在宅での薬物療法が適切に機能しないケースが発生していると問題視されているのです。
また、24時間対応できる薬局も少なく、夜間や休日に緊急対応が必要な場合、医師や看護師だけで対応せざるを得ない状況もあります。特に急性期の患者には迅速な薬剤供給が不可欠であり、薬局の体制強化が求められています。地域ごとに、必要な薬剤を少ないリソースの中でどう効率的に調達するのか、考える必要があります。昨今の医薬品の供給不安がある中でも、このように必要になる薬剤があぶり出されているならば、少なくともその種類だけは当番薬局で必ずそろえるようにするなどの話し合いも可能ではないでしょうか。一つの薬局ですべてを対応することのデメリットは大きいですから、地域全体で考えて仕組みで支えていくのが最適ではないかと感じています。
また、急性期対応においても薬剤師は服薬管理と副作用のモニタリングに重要な役割を果たします。高齢者ではポリファーマシーのリスクが高く、急変時には薬剤の副作用や相互作用が悪化の要因となる可能性があります。特に急いでいる状況の薬剤選択の際に、薬剤師が服薬状況を適切に把握し相互作用等のチェックを行うことができれば不必要な副作用の発現も防げます。この分野は薬剤師の本領を発揮できる部分でもあり、地域に貢献できる重要な因子です。
最近では医療DX推進の点数が充実したことで、他職種からの情報を薬剤師がリアルタイムで共有できる環境が整ってきました。地域連携システム等を活用することで、医師・看護師と連携しながら、より迅速で適切な対応が可能になるため、地域医療を展開する以上、導入は必須です。在宅医療チーム内で薬剤師の関与が十分に認識されていないことがあり、現状では導入が始まってもうまく活用できていない地域もあるようで、上手な運用も課題です。薬局は比較的ICTの導入に積極的なところが多い印象があります。地域を引っ張っていけるような存在でありたいです。
現在、わたしが勤務する診療所でお世話になっている薬剤師はみな、訪問活動を通じて多職種と連携し、点滴管理や緊急時の薬剤供給などを担ってくれています。しかし、すべての地域でこのような体制が整っているとは言いがたく、多くの地域では訪問薬剤管理指導が十分に行われていないという指摘もあり、これは前述のデータと一致します。その結果、医師や看護師の負担が増し、在宅での薬物療法が適切に機能しないケースが発生していると問題視されているのです。
また、24時間対応できる薬局も少なく、夜間や休日に緊急対応が必要な場合、医師や看護師だけで対応せざるを得ない状況もあります。特に急性期の患者には迅速な薬剤供給が不可欠であり、薬局の体制強化が求められています。地域ごとに、必要な薬剤を少ないリソースの中でどう効率的に調達するのか、考える必要があります。昨今の医薬品の供給不安がある中でも、このように必要になる薬剤があぶり出されているならば、少なくともその種類だけは当番薬局で必ずそろえるようにするなどの話し合いも可能ではないでしょうか。一つの薬局ですべてを対応することのデメリットは大きいですから、地域全体で考えて仕組みで支えていくのが最適ではないかと感じています。
また、急性期対応においても薬剤師は服薬管理と副作用のモニタリングに重要な役割を果たします。高齢者ではポリファーマシーのリスクが高く、急変時には薬剤の副作用や相互作用が悪化の要因となる可能性があります。特に急いでいる状況の薬剤選択の際に、薬剤師が服薬状況を適切に把握し相互作用等のチェックを行うことができれば不必要な副作用の発現も防げます。この分野は薬剤師の本領を発揮できる部分でもあり、地域に貢献できる重要な因子です。
最近では医療DX推進の点数が充実したことで、他職種からの情報を薬剤師がリアルタイムで共有できる環境が整ってきました。地域連携システム等を活用することで、医師・看護師と連携しながら、より迅速で適切な対応が可能になるため、地域医療を展開する以上、導入は必須です。在宅医療チーム内で薬剤師の関与が十分に認識されていないことがあり、現状では導入が始まってもうまく活用できていない地域もあるようで、上手な運用も課題です。薬局は比較的ICTの導入に積極的なところが多い印象があります。地域を引っ張っていけるような存在でありたいです。
3.おわりに
在宅医療の急性期対応を充実させるためには、薬剤師のさらなる関与が不可欠です。現在、積極的に活動する薬剤師がいる一方で、全国的にはまだ十分な体制が整っていない地域も多く、課題が残ります。薬局が在宅医療への参画を推進し、地域医療の中心的な役割を果たすためにさらなる取り組みが必要です。そして薬局薬剤師は、救急搬送のところでも少し触れましたが、訪問だけではなく外来での患者との接点を持つことで、より早期からかかりつけとして支えになれる特別な職種です。そのメリットを最大限に発揮して地域に貢献していきましょう。
【2025.3月号 Vol.346 保険薬局情報ダイジェスト】
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2025-05-02
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.14)(令和7年4月18日事務連絡)を追加しました
2025-05-01
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.13)(令和7年4月7日事務連絡)を追加しました
[お知らせ]
2025-05-07【セミナーのご案内】新社会システム総合研究所主催「ミクロとマクロのデータ分析による エビデンスある病院経営戦略」
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『九州医事新報/中四国・関西医事新報/東海・関東医事新報』で「HMレビュー」が紹介されました
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