保険薬局

薬局での医薬品販売について考える

ファーマ・トピックス・マンスリー
たんぽぽ薬局株式会社 薬剤師 緒方孝行
俄かに出てきたこちらの話題に驚かれた方も多いのではないだろうか。ある政党から社会保険料の改革案として、国民医療費の総額を年間で最低4兆円削減し、それによって現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げることが示され、その中の先行実施策の一つとして、 「OTC医薬品の活用によるセルフメディケーションの促進」 が挙げられた。一見、不必要な受診などが縮小され、真に必要な方へ医療が提供されるような未来図が見えてくるが、事態はそう簡単ではない。処方箋医薬品以外の医薬品や、同一成分がすでに一般用医薬品として流通している医療用医薬品として表現される“OTC類似薬”の扱いは非常にシビアになると考えられる。
このOTC類似薬への対応を考えていく上で、具体的な内容は明確化されていないが、1)経済的な観点、2)専門家による指導の観点、3)流通面の観点などの課題がみえてくる。日本医師会や日本薬剤師会がすでに記者会見などで発表しているが、社会保障は日本の医療を支える根幹であり、国民負担を増やし、社会保障費を削減するという案は受け入れがたいという見解である。

次に課題を細かく見ていきたい。

1) 経済的な観点
課題としては、医療的ケアが必要な状態であっても、経済的な負担面から受診を控えてしまうというような、医療アクセスの低下が懸念される点であろう。早期であれば内服などの処置で対応可能であったものが重篤化し、内服などでは対応不可能な状態に陥る可能性がある。そして結果的に入院などが必要になり、国として負担する医療費が増加し、生産年齢人口が減少するという危険性をはらんでいる。

2) 専門家による指導の観点
全容が見えていないが、もし万が一、医師の診察を受けることなく、薬局をファーストアクセスの場とし、そこで体調改善を行うことが期待されているのであれば、まず前提として薬剤師などの有資格者の関与を100%にする必要があるだろう。医薬品販売制度実態把握調査によると、その数値は全て100%に至っておらず、課題も多く残っている。このような課題を整理し、必要な施策を整えた上で議論されるべきと考える。また、ありふれた主訴に隠された重篤な疾患についても注意が必要だろう。血液検査などのデータを用いて、単なる腹痛の陰に潜んでいる重篤な疾患(がん、急性膵など)の可能性を否定していった上で、適切な薬物
の選択が可能となるのではないだろうか。

3) 流通面の観点
課題は、OTC医薬品の入手に時間がかかりすぎる点であろう。医療用医薬品などは緊急配送される体制が組まれているが、一方でOTC医薬品の配送便は週に1回など限定的な卸も多く存在する。結果として、患者は薬局でOTC医薬品を入手するために取り扱いのある薬局を探さなければならず、医療アクセスの阻害につながりかねないことが懸念される。また大手チェーンと比較して、個店薬局などでは、その購入量の差から納入価が高く設定され、大手チェーンとの価格差により経営困難に陥る危険性も高いのではないだろうか。かといって、OTCに対して公定価格のようなものを設定するわけにもいかないため、難しい選択を迫られるのではないかと考えられる。

以上のことから、保険業界などでは新たな保険商材につながるなど、一部の業界では歓迎されることなのかもしれない。しかし、保険薬局業界としては極めて難しい選択だろう。薬剤師の職域を考えればチャレンジしていくことも必要になるが、このような話が出た時点で、まずは症候学に関する研修など、薬剤師の人材育成を行うことが必須になるだろう。現時点では日本医師会、日本薬剤師会はOTC類似薬の保険適用外については反対姿勢だが、診療報酬という公的保険制度の中で収入を得ている業態である以上、国の方針に従わざるを得ない状況が来るかもしれない。今回のように、今後起こり得る未来として方向性が示されているのであれば、それに対する準備状況によって、明日以降の薬剤師の働き方が左右されてしまうかもしれない。
今後の動向について注視が必要なトピックスの一つだろう。


【2025.4月号 Vol.347 保険薬局情報ダイジェスト】