保険薬局
認知症の緩和ケアにおける薬剤師の役割と可能性
在宅医療の羅針盤
在宅療養支援診療所薬剤師連絡会 代表理事・在支診薬剤師 大須賀 悠子
近年、認知症の人が抱えるさまざまな苦痛に対し、包括的なケアを提供する重要性が高まっています。2024年4月には、認知症の人の 「絶望」 を 「希望」 へと変えるケアの確立を目指し、 「日本認知症の人の緩和ケア学会」 が設立されました。認知症の緩和ケアという概念は、これまで 「がん」 を中心に考えられていた緩和ケアの対象を広げ、認知症特有の苦痛に適切に対応することを重視しており、議論が深まってきています。薬剤師も日常的に認知症の人と接する医療職です。認知症の緩和ケアにおいてどのような関わりが求められるでしょうか。
認知症の人が抱える苦痛をどう感知するか
薬剤師が認知症患者の苦痛に気付く契機は、服薬管理の難しさという点から始まることが多いと思います。筆者自身も、認知症の人の家族などから、本人がだんだん薬を指示通りに飲めなくなってきたと聞き取ることから、本人と家族双方の苦痛に気付くことが多いです。
以前は当たり前にできていたことができなくなると、本人だけでなく家族にとっても苦痛が生じます。どうしてもできないことを責めたり強制したりするような言動になりがちです。本人は記憶が曖昧でも、怒られた感情は残ると言われており、それが不安を引き起こし、行動・心理症状(BPSD)として表出される悪循環に陥ります。その苦痛の原因が難しい服薬であることを検知できたならば、どのように処方を改善したら苦痛が減りそうかを一緒に悩むのが薬剤師の責務ではないでしょうか。
以前は当たり前にできていたことができなくなると、本人だけでなく家族にとっても苦痛が生じます。どうしてもできないことを責めたり強制したりするような言動になりがちです。本人は記憶が曖昧でも、怒られた感情は残ると言われており、それが不安を引き起こし、行動・心理症状(BPSD)として表出される悪循環に陥ります。その苦痛の原因が難しい服薬であることを検知できたならば、どのように処方を改善したら苦痛が減りそうかを一緒に悩むのが薬剤師の責務ではないでしょうか。
認知症の人が抱える苦痛の理解
認知症の人の抱える苦痛は、身体的・心理的・社会的なものと多岐に及びます。
身体的な痛みは、認知機能の低下によって本人がうまく表現できないことで適切に判断することが難しく見落とされがちです。摂食・嚥下障害、褥瘡、呼吸困難に関わる苦痛もあるでしょう。不快そうな表情をしていないかなど、注意深く観察しながら関わることが必要です。
医療行為や治療負担に伴う苦痛は、特に医療者として考えるべき点でしょう。服薬管理には人的なリソースも必要になることが多いので、調剤した薬は誰がいつどのように介助して本人に服薬を促しているのかなど、詳細を把握することが薬剤師としてまずできることかもしれません。
心理的な面では、不安、鬱、不眠、孤独感などがBPSDとして表れることが多く、自己アイデンティティの喪失や社会的役割の変化による実存的苦痛(Spiritual pain)も深刻です。ただ症状に薬剤で対処するのではなく、その背景にある原因を見極めるアセスメントが必要です。
社会的な側面では、独居、経済的困窮、セルフネグレクトなどの問題が挙げられます。また、認知症の進行とともに社会とのつながりが希薄になり、孤立することも問題視されています。これらの多面的な苦痛を包括的に理解し、対応することが、認知症の緩和ケアの核心となります。
身体的な痛みは、認知機能の低下によって本人がうまく表現できないことで適切に判断することが難しく見落とされがちです。摂食・嚥下障害、褥瘡、呼吸困難に関わる苦痛もあるでしょう。不快そうな表情をしていないかなど、注意深く観察しながら関わることが必要です。
医療行為や治療負担に伴う苦痛は、特に医療者として考えるべき点でしょう。服薬管理には人的なリソースも必要になることが多いので、調剤した薬は誰がいつどのように介助して本人に服薬を促しているのかなど、詳細を把握することが薬剤師としてまずできることかもしれません。
心理的な面では、不安、鬱、不眠、孤独感などがBPSDとして表れることが多く、自己アイデンティティの喪失や社会的役割の変化による実存的苦痛(Spiritual pain)も深刻です。ただ症状に薬剤で対処するのではなく、その背景にある原因を見極めるアセスメントが必要です。
社会的な側面では、独居、経済的困窮、セルフネグレクトなどの問題が挙げられます。また、認知症の進行とともに社会とのつながりが希薄になり、孤立することも問題視されています。これらの多面的な苦痛を包括的に理解し、対応することが、認知症の緩和ケアの核心となります。
認知症緩和ケアにおける薬剤師の役割
1.苦痛の早期発見と適切な介入
服薬管理の問題や生活の変化を通じて、認知症の兆候や苦痛を早期に察知することができるので、最近では、かかりつけ薬剤師が介護保険につなげる役割を担っているケースにも多く遭遇します。
2.服薬管理とポリファーマシー対策
調剤方法の工夫や服薬タイミングの調整などを行うことで、服薬の負担を軽減するとともに、ポリファーマシーの問題にも注意を払い、不要な薬の削減や処方の見直しを医師に提案することが求められます。
3.身体的・心理的苦痛の軽減
苦痛に対し適切な薬物療法を提案することで、服薬アドヒアランスの向上や副作用のコントロールにも貢献できます。不眠や不安に対しては、薬剤以外のケアも提案できたらよいでしょう。
4.家族支援と地域連携
介護者の負担軽減を意識した服薬支援は薬剤師の大きな役割です。認知症の進行に伴う症状変化について地域の各職種と情報共有し、家族やチームが適切に対応できるよう支援することが重要です。
地域での認知症サポートと今後の展望
薬局は地域住民にとって最も身近な医療資源の一つであり、認知症に関する普及・啓発活動の場としての役割も期待されています。認知症カフェや地域住民に向けた勉強会を開催する薬局も増えてきました。地域の認知症支援活動に関わることで、より包括的な支援体制を構築することが可能です。
近年認知症に対する捉え方も変化し、単なる器質的な病気としてではなく、その人の全体的な状態として認識するようになってきました。この考え方は、認知症の人を 「患者」 としてラベル付けするのではなく、その人らしさを尊重し、個別的なケアを提供することの重要性を強調していることから、呼称も認知症患者ではなく認知症の人と表現されます。今後ますます認知症の緩和ケアの重要性は高まります。薬剤師は、薬の専門家としてだけでなく、生活全般を支える医療職として、認知症の人と家族の生活を支える重要な役割を担っています。薬剤師も積極的に学び、認知症の人が最期まで尊厳を保ち、その人らしく生きることを支える役割を担っていきましょう。
【2025.4月号 Vol.347 保険薬局情報ダイジェスト】
近年認知症に対する捉え方も変化し、単なる器質的な病気としてではなく、その人の全体的な状態として認識するようになってきました。この考え方は、認知症の人を 「患者」 としてラベル付けするのではなく、その人らしさを尊重し、個別的なケアを提供することの重要性を強調していることから、呼称も認知症患者ではなく認知症の人と表現されます。今後ますます認知症の緩和ケアの重要性は高まります。薬剤師は、薬の専門家としてだけでなく、生活全般を支える医療職として、認知症の人と家族の生活を支える重要な役割を担っています。薬剤師も積極的に学び、認知症の人が最期まで尊厳を保ち、その人らしく生きることを支える役割を担っていきましょう。
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