病院・診療所

診療報酬から見るポリファーマシー対策の進捗

データから読み解く!
株式会社メデュアクト 代表取締役 流石 学
今号ではポリファーマシー(多剤投与)対策について、その取り組み状況を診療報酬の観点から検証する。
ポリファーマシー対策にかかる診療報酬の変遷を振り返ると、まず2016年改定において、入院では薬剤総合評価調整加算が、外来では薬剤総合評価調整管理料が新設された。薬剤の種類が多い場合に減算される仕組みは存在していたが、患者の服用する薬剤を減らすことにインセンティブがつく形となった。薬剤総合評価調整加算、薬剤総合評価調整管理料ともに、常態として6種類以上の内服薬を処方されている患者に対して、処方薬を2種類以上減らした場合に250点がつけられた。
2020年改定では、前述の薬剤総合評価調整加算が、プロセス評価の薬剤総合評価調整加算とアウトカム評価の薬剤調整加算の2段階の評価に分かれた。医師、薬剤師、看護師等の多職種による総合的な評価を行い、投与する薬剤に何らかの変更があればプロセス評価(薬剤総合評価調整加算)として100点を、そのうえで2種類以上の減薬ができた場合はアウトカム評価(薬剤調整加算)で150点が上乗せされ、合わせて従来の薬剤総合評価調整加算と同じ250点の算定となる。2024年改定では、薬剤総合評価調整加算の算定要件の1つである多職種による総合的な評価が、医師、薬剤師、看護師等による 「多職種によるカンファレンスを実施」 という表現から、 「多職種による連携の下で」 に改められたことで、算定のハードルは下げられた形となった。

■薬剤総合評価調整加算等の算定状況は?

実際の算定状況はどうだろうか。薬剤総合評価調整加算、薬剤調整加算(入院)および薬剤総合評価調整管理料(外来)について、社会医療診療行為別統計をもとに、各年6月の算定回数の推移を図にまとめた。
まず入院の図を見ると、プロセス評価となって以降の薬剤総合評価調整加算は年を追うごとに算定回数が増加していることがわかる。一方で2種類以上の減薬が求められる薬剤調整加算は、2018年制度以前の薬剤総合評価調整加算と変わらず、月2,000~3,000件で推移している。入院時と退院時を比較して結果的に2種類以上の減薬に繋がるケースは大きく変わらないものの、ポリファーマシー対策に取り組むケースは確実に増えているようだ。
一方で外来はどうだろうか。外来で2種類以上を減薬した場合に算定できる薬剤総合評価調整管理料は、新設されたばかりの2016年は算定回数が月1万回を超えていたが、その後は低下し、ここ数年は月3,000件程度で推移している。
処方内容の調整にあたって、別の保険医療機関や保険薬局に、照会もしくは情報提供を行った場合に算定できる連携管理加算は、新設直後においても、薬剤総合評価調整管理料の算定回数の1割に満たなかったが、その後も月300~400回程度で推移しており、顕著な変化は見られない。複数の施設が連携して取り組むケースは少なく、自施設で完結させることが大半となっている。

算定回数の推移



■ポリファーマシー対策はこれからどうなるのか

ポリファーマシー対策が、医療の質の向上に有益であることに異論のある医療者は少ないだろう。社会の流れもあり、他医の処方に手を出さないという業界の不文律も、筆者が日々の業務を通じて医師の話を聞くなかでは、その意識が年々薄らいでいることを感じる。決して急速な変化ではないものの、薬剤総合評価調整加算の算定件数が徐々に増加しているのは、そうした意識変化も影響しているのではないかと察する。
外来は、オンライン資格確認や電子処方箋が普及することで、これまで見えづらいところの多かった他医療機関の処方薬がクリアになる。電子処方箋に関しては即時的な効果として重複投薬の防止が期待されているが、ポリファーマシー対策にも有効だ。他医療機関からの処方薬がすべて見えることで、これまで隠れていた内服薬6種類以上服用している患者が顕在化するだろう。薬剤総合評価調整管理料は新設初年度に算定回数のピークを迎えてしまっているが、医療DXの進展により、算定回数が再び増加するかもしれない。
経営的には別の視点からも考えたい。診療報酬上の評価があるとどうしても点数に目が行きがちだが、ポリファーマシー対策に関しては、例えば薬剤料が入院料に包括されている病棟では、診療報酬による点数よりも、投与薬剤が減ることによる費用削減効果のほうが大きい。むしろ診療報酬がおまけと言えるかもしれない。その視点に立てば、内服薬6種類以上の服用という算定要件に縛られる必要もない。当然ながら医療の質向上にも繋がっていく。


【2025. 5. 1 Vol.1 メディカル・マネジメント】