保険薬局

在支診薬剤師の働き 終末期心不全の地域連携

在宅医療の羅針盤
在宅療養支援診療所薬剤師連絡会 副理事 在支診薬剤師 佐久間 詠理
近年の高齢化とともに心不全患者が急増しています。厚労省の調査でも、死亡原因疾患の第二位になっているのが心疾患です。在宅医療においても、悪性腫瘍と同様に、終末期心不全患者への緩和医療の提供が求められています。
2024年診療報酬改定では、カテコラミン注持続投与に対して在宅強心剤持続投与指導管理料が新設され、また在宅麻薬等注射指導管理料の対象疾患に心不全・呼吸器疾患が追加されました。カテコラミン注射薬の離脱ができずに長期入院となっていた終末期心不全患者さんが、 「自宅に帰りたい」 と希望したとき、在宅でも持続投与を継続するという選択が広がると考えます。
これらの診療報酬の新設とともに、ドブタミン・ノルアドレナリン注射薬などのカテコラミン注の院外処方が認められました。当院では、2024年度、カテコラミン持続投与継続で在宅移行した2例において、在宅強心剤持続投与指導管理料を算定してドブタミン注射薬を院外処方することが実現しました。改定後に受け入れ患者数が急激に増加したわけではありませんが、1例、1例の医療提供において保険薬局との連携に変化があり、制度の重要性を感じています。

カテコラミン注の院外処方を保険薬局が受けることで、適正投与とその管理に対して、薬局薬剤師に責任が生じます。終末期心不全でカテコラミン注が離脱できないで退院する患者さんは、カテコラミン以外に利尿剤やオピオイドなどの注射薬が併用となることが多く、薬局薬剤師はそれら併用薬の相互作用に注意し、適正管理を行っていくことへの関わりが求められます。もちろん今までも併用する内服薬の処方を受け、その管理で関わりがあったと思いますが、注射薬の処方を受けることになれば、その責任、役割も加わることは言うまでもありません。
適正管理を行っていくには、病院・診療所・訪問看護・保険薬局との連携が重要になります。処方にあたっては病院とは異なる在宅での投与ルート、ポンプの選択、薬液の組成、流速など適正投与のための十分な検討が診療所内で行われます。私自身は在宅療養支援診療所薬剤師(以下、在支診薬剤師)として検討に加わります。在支診薬剤師は検討の結果を薬局薬剤師にしっかりと情報共有することが責務だと考えています。情報提供後、薬局薬剤師にはその準備に入っていただきますが、院内の他職種のダブルチェックとは異なる視点で、薬局薬剤師と在支診薬剤師が薬剤師間のダブルチェックを行うことで、適正投与の精度が高まります。情報提供時に再検討が必要な事項が発生したら、薬局薬剤師の意見を在宅医師・訪問看護師にフィードバックし診療所で再検討を行うこともあります。
また、以前は訪問看護師が患者宅で薬液の調製を行っていましたが、処方を受けた薬局薬剤師が薬剤師間でダブルチェックして薬剤を提供することで、より良い薬物療法の提供が可能になります。加えて、訪問看護師が本来の看護師の仕事であるケアに集中することができれば、在宅チーム全体の医療の質が高まります。
フロセミドなどの利尿剤の処方は院外処方とはならず、保険薬局が全ての注射薬の処方を受けられるわけではありません。そのため患者さんの状態を全て把握することが難しい点が問題としてまだ残されています。しかし、保険薬局を加えたチーム編成ができてきたことで、間違いなく以前より良い医療の提供に繋がっていると考えます。
そして忘れてはならないのが、患者さん・ご家族の精神面でのサポートです。患者さんは入院加療の下、心不全の急性憎悪と回復を繰り返して、最期は自宅で過ごしたいという希望で退院してきます。覚悟して帰ったとしても、死への恐怖や不安と闘いながら自宅で過ごされていて、精神状態は不安定になりがちです。突然襲ってくる恐怖心から急に大きな声で叫んだり、ご家族に激しく気持ちをぶつけたり、感情をコントロールできないことがあります。医療に対する希望、生活上での希望、病院ではなくご自宅だからこそ訴える強い希望に、私たち医療者は応えていかなければならないと考えます。精神面でのサポートにおいても、在宅チームの連携が重要となることは言うまでもありません。対話のなかで気を付けることの情報共有をして、希望に応えるための在宅ならではの工夫を、一緒に考え協働したいと思っています。
在支診薬剤師は、情報を薬局薬剤師にしっかり共有するという役割が重要であり、院内にいる薬剤師だからこそできる役割です。薬局薬剤師が加わった在宅チームで、共に患者・家族の希望とする在宅療養を支えていきたいと考えています。


【2025.7月号 Vol.3 Pharmacy-Management】