診療報酬

採用困難なメディカルスタッフ3職種

新卒病院薬剤師の採用困難は調剤薬局との給与格差
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 新卒病院薬剤師の採用困難は調剤薬局との給与格差

病院のメディカル・スタッフ(コ・メディカル)において採用困難な3職種と言えば、一部の買い手市場のブランド病院を除いては「薬剤師」「看護補助者」「社会福祉士」ではないだろうか。薬剤師は来年4月から施行予定の「医師の働き方改革」において、「医師業務の薬剤師との分担」が医師の業務負担減につながるとされている。さらに前回2022年度改定では「病棟薬剤師業務の評価」とされ、具体的には「麻酔管理料の周術期薬剤管理加算の新設」「医師、看護師、薬剤師の術後疼痛管理チーム加算の新設」「小児病棟も病棟薬剤業務実施加算対象へ」「医療的ケア児等に対する専門的な薬学管理の評価」が行われた。

そうは言っても、新卒薬剤師を募集しても応募すらない中小規模病院が多い。理由は薬学部6年間で多額の奨学金返済を抱えている関係で、初任給が病院よりも高い調剤薬局を選択することが大きな要因であろう。厚労省も都道府県ごとの薬剤師偏在状況データを出して、少ないところは目標薬剤師数確保のための施策を策定と促している。ただし、これは自治体への丸投げ感が強い。抜本的に調剤薬局との給与格差を是正するような病院薬剤師に対する処遇改善加算的な診療報酬手当が必要ではないだろうか。昨年10月からの「看護職員処遇改善評価料」における分配可能な職種から薬剤師が除外されていたことには一瞬、わが眼を疑った。

■看護補助者には介護保険の処遇改善加算がない

今回の3職種で最も採用困難な職種は「看護補助者」であろう。理由は増やしたいが募集しても集まらないことだ。都会では他に賃金が高い仕事があり、地方ではそもそも働き手が少ないために応募がない。日本看護協会によれば2019年度の看護補助者の年度
内離職率は正規雇用25.6%、非正規雇用32.9%、正規・非正規合算で29.9%と非常に高くなっている。退職理由も「思っていた業務内容と異なる」が最も多く、3K(きつい、汚い、危険)職種になっている。もう一つは低賃金である。厚労省によれば、看護補助
者の平均年収は約303万円(平均年齢46.8歳、賞与込み)であり、他の介護系職種と比較しても30万〜80万円ほど低い。

病院の医療保険対象病棟や外来で働く看護補助者の賃金問題は、介護施設で働く「介護職員」が対象になる介護保険からの「介護職員処遇改善加算」がないことだ。同加算はⅠ:月額3.7万円相当から3段階あり、キャリアパス要件、職場環境等要件で加算が変わる。院内に医療保険対象の病棟がある場合、ここで働く看護補助者は介護職員処遇改善加算の対象とならない。一方、同一病院内でも介護保険対象の介護医療院で働く場合は対象となる。ほぼ同じ介護業務だが、病棟が違うと給与が変わるという問題が発生する。アフターコロナによる需要拡大で他のサービス業においても人手不足が発生しており、募集賃金や時給が引き上げられているため、ますます病院の看護補助者が集まらないという負のスパイラルも発生している。

■ 社会福祉士(MSW)は供給よりも需要が上回っている

次回2024年は医療・介護・障害福祉のトリプル改定である。患者にとって必要なサービスをシームレスにつなぐためには国家資格である「社会福祉士」の役割がますます重要となる。ところがこれも全国の多くの病院から、募集しても応募すらないという嘆きを頻回に聞く。社会福祉士は病院においてはMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)とも呼ばれる。

社会福祉士は社会福祉振興・試験センターによると本年2月末現在で全国に271,263人の登録がある。診療報酬上は2008年改定で「退院調整加算」(当時)が創設され、その部門に専従の看護師または社会福祉士が1名以上配置とされた。その後「退院支援加算」から「入退院支援加算」と名称・要件変更と点数の引き上げがあった。

厚労省が3年ごとに行う医療施設調査によると、100床あたりの社会福祉士人数は2002年の0.1名が2020年には1.2名と増加している。2020年同調査から病床規模別100床あたりの人数は100〜149床規模が1.5人と最も多く、次いで150床〜199床規模が1.4人と続く。100床〜200床未満の中小病院は一般病棟だけではなく、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟、療養病棟等を持つケアミックス型病院が多く、他院、介護施設、在宅との連携が重要なため、多くの社会福祉士が必要である。現在、病院が採用困難になっているのは需要増に供給が追いついていない状態といえよう。

また、急性期病床を高速回転させたい病院経営上の問題と、少しでも長く入院していたい患者との狭間に入って、MSW本人がバーンアウト(燃え尽き症候群)になってしまうケースも多い。現在の病院機能分化の観点からはやむを得ないのだが、高い理想を持って社会福祉士になって「患者さんのために」という意識と現実とのギャップである。この理由による退職は少なくない。いずれにしても、3職種リクルートのためには抜本的には賃金引き上げしかなく、そのためには次回2024年改定で処遇改善につながるような診療報酬引き上げが必要になろう。


【2023. 10. 1 Vol.577  医業情報ダイジェスト】