組織・人材育成

私は職員のことを一番考えている

組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
少子高齢化による現役世代の減少はもちろんのこと、診療報酬の改定や医療・技術の進歩により、日常的な業務の忙しさが増していると感じている医療従事者の方は多いのではないでしょうか。その状況に対応すべくICTの活用など、それぞれの組織で工夫をされてはいるものの、本質的な解決のためには組織力の向上が不可欠であると考えます。
今回は、組織をより良く改善していくための役割があることは理解しているものの、無意識に改善の足枷になってしまっているリーダーに悩むスタッフの例から、組織をより良くするためのスタッフとの対話について学んでいきたいと思います。

ケース

地方都市にあるクリニックのお話です。クリニックで長年働く看護師Aさんは、勉強熱心で知識も技術も院長先生から高く評価されています。もともと院長先生の奥様が右腕としてクリニックを支えていましたが、家庭の事情からクリニックに注力できなくなったため、その代役に、同じ看護師であるAさんが抜擢されたのでした。Aさんはリーダー的役割に抜擢されたことについてこう話をしています。

Aさん 「私はこれまでクリニックのために役に立ちたいと一生懸命頑張ってきました。これからもこのクリニックが患者さんはもちろんスタッフにとってもより良くあるために、精一杯努めていきたいと思います」

ある日、クリニックに新しい看護師Bさんが入職しました。Bさんは前職で外来診療に定評のあるクリニックで働いていたこともあり、その知識をこのクリニックでも活かしてほしいと院長先生は期待していました。

さて、このクリニックでは生活習慣病を有する患者が多く通われていますが、これまで患者に対する生活指導を積極的には行ってきませんでした。医師のみならず看護師など多職種を交えて指導を行うことは 【患者の健康に寄り添う】 というクリニックの理念にも合うのではないかと、新人Bさんは前職で行っていたシステムについてAさんに伝えたのでした。

Aさん 「そういうことができたら良いのかもしれないんだけど、うちは患者さんが多いわりにスタッフ数は多くありません。職員はもちろん一生懸命仕事に励んでくれているところだし、これ以上仕事を増やすような酷なことはしない方が良い。中途半端な指導は却って患者さんに良くないし、それで診療報酬をいただいて、もし返還になったら……」

Bさんは言いにくそうに言葉を続けます。
Bさん 「懸念されることは分かります。それならば業務整理を行うのはいかがでしょうか?業務整理を行って患者指導を行うことができたら、クリニックの理念の実現はもちろん、私たち医療従事者のモチベーションアップにも繋がると思うのですが……」

Aさんは微笑みながらこう答えたのでした。
Aさん 「業務整理は度々やってきているから、心配しなくても大丈夫なの。これ以上もうやるところは無いからね。だから、今以上の仕事を増やすことは現実的では無いのよ」

Bさんはそれ以上言葉を返すことはありませんでした。
この後、Bさんはこっそり筆者に上記のことを伝えにやってきました。
Bさん 「確かに私は入職して日が浅いので発言すべきでなかったのかもしれません……。でも患者さんから 『もっと詳しく生活について話を聞きたい』 という声が以前から上がっていたと他のスタッフから聞いていましたし、看護師という専門職を活かせる仕事をしたいのに事務的な仕事ばかりでは残念だなと思っていました。何より、もっと業務改善できるところがあるのに、少しの話も聞いてもらえなかったのは残念です」
Bさんの落胆は大きく、早くも転職を考えています。

院長先生 「看護師のことはAさんに任せているから私が何か言うのもね、残念だけど……」

このケース、どのような感想を持ちましたか?組織をより良く改善したいと思わないリーダーに出会ったことは無く、改善のために必要であればどんなことでも挑戦していきたいと語るリーダーが殆どだと思います。しかし、実際に改善に踏み込もうとすると、このケースのように 「これまで自分が行ってきたことや考え方」 に無意識に固執してしまうことは少なくないように感じます。もちろん、それまで行ってきたことが必ずしも間違っている訳ではありません。ただし、日々環境が変わり、組織員の構成が変わっていることを考えると、改めて自分たちの環境を出来る限り客観的に振り返り続ける意識は常に持っていた方が良いのではないかと感じます。
このケースが皆さまの組織作りにとって何かしらの参考になれば幸いです。


【2025年10月15日号 Vol.12 メディカル・マネジメント】