組織・人材育成

世代による違いを理解しようとすること

コミュニケーションの第一歩は相手を理解すること
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
ようやく関東でも冬の気配を感じられる気候になってまいりました。季節の変わり目は出張に行く際の服装に悩みますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか?今回は、時代は移り変わっても話題が尽きない 「世代による違い」 の考え方について記していきたいと思います。

ケース:

関東にあるクリニックのお話です。この院長先生(50歳)は20代の若手スタッフとの関係性に悩んでいます。

院長先生 「また若手スタッフAさん(女性)が辞めてしまうのです……。当日の休みの連絡が勤務開始10分前にSNSのメッセージで副院長(女性)宛に来ることが続き、そのことについて指摘をしたら退職を決意したそうなのです。男性である私には言い難かったのかも知れませんが……。そして他の若手スタッフBさんは仕事をお願いしようとしても 『できません』 という返事が返ってきてしまうので、Bさんに仕事を任せられない状況が続き困っています。たまたまうちのクリニックのスタッフが特殊なのかもしれません。一括りに 『若手』 と言っても頑張ってくれているスタッフもいるので一概には言えないと思いますが、今までこんな問題は起こってこなかったので頭を悩ませています」

筆者 「それは困りましたね。世代論は時代が移り変わっても語り継がれるものです。ざっくりと世代で区切ることに私自身も疑問が残るところはありますが、それぞれの世代がどのような環境で育ってきたかを考えると関わりにおけるヒントは得られるかもしれません」

院長先生「なるほど。ではZ世代(諸説ありますがおおよそ1995年から2010年生まれ)と言われている人の生きてきた環境というと、具体的にはどうなりますか?」

筆者 「世代を考えるにはその世代で売られていた飲み物を見るとよく分かるという話があります。例えば、バブル世代は、流行語大賞になった 『24時間戦えますか』 に代表される肉体疲労時の栄養補給を目的としたドリンクが流行り、その後は海外からやってきたおしゃれなエナジードリンクが流行りました。これらは『今頑張っていて、これからももっと頑張るために・動けるようにするため』という目的で飲むものです。現在ではいわゆる 『チル』 と言われる、癒されたり、ゆったりとした時間を過ごしたりすることを目的とした飲み物が店頭に並んでいます。例えば 『睡眠の質を改善するため』 と謳っているものを見たことがあると思います。我々世代からすると 『そんなに疲れてなさそうなのに癒されたいのか』 と揶揄したくなる気持ちは分かりますが、望ましい状況が真逆と言えるほど変化しているということは理解しなければならないと思います」

院長先生 「確かに……頑張らなかったり努力しなかったりする怠け者と決めつけるのではなく、癒しやまったりくつろぐことができる環境を望んでいる世代なのですね。私もただひたすらに頑張るだけではなく、ゆったり過ごす時間も大切にしたいと思うので共感できる部分がゼロではないかもしません」

筆者 「そして、SNS世代なので 『いいね』 に代表される承認欲求の強さへの理解も必要だと考えます。承認欲求はあくまで自分ではなく、他者から承認されることが重要ですので、 『何も言わなくても伝わるだろう』 ではなく、例えば仕事の頑張りについてコメントしたり、労うことは自分たちが思う以上に重要な意味を持つのではないでしょうか」

院長先生 「実は『院長先生は私たちの仕事を正当に評価してくれない』という不満をぶつけられたことがあります。私としては正当な評価をしていると思いましたが、全く伝わっていなかったようで、これまで以上にコミュニケーションを取っていかないといけないと気付かされたのです」

筆者 「冒頭でお伝えした通り、若手全員がその通りであるわけではありませんが、世代論もある程度人を知るための道具になり得るのではないでしょうか。もちろん雑誌等々で語られる世代論を鵜呑みにし過ぎず、日頃のコミュニケーションの中で相手の個別性を探ることも忘れずに」

このケース、どのような感想を持ちましたか?世代により育ってきた環境が異なるために大切にしている価値観が異なることでコミュニケーションエラーが起こることは多々あると思います。より良いコミュニケーションの第一歩は相手を理解することです。相手の育ってきた環境を知ることで新たな発見があり、相手に対する理解度が上がるはずです。これはもちろん下の世代だけではなく上の世代についても同様です。伝えたいことが伝わりにくい若手に出会った時に 「伝わらないなんて理解力がないな」 と頭から決めつけるのではなく、前提となる価値観が違う可能性を考慮の上 「なぜ理解できないのか、その背景に何があるのだろう」 と考えてみてはいか
がでしょうか。


【2024. 12. 1 Vol.605 医業情報ダイジェスト】