病院

ペーパーレス化が医療機関に与える影響を考える

承認漏れを防ぐことでガバナンスの向上も期待
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
最近、テレビやインターネットで「電子帳簿保存法」に関連するCM等を目にされませんか。この電子帳簿保存法、簡単に言えば、電子で受け取った請求書や領収書等の帳簿書類はそのまま電子のまま保管することが求められるようになるというものです。電子メールやウェブサイトからダウンロードすることにより、請求書や領収書等の帳簿書類を受け取る機会も多くなってきたのではないでしょうか。電子帳簿保存法は、対象となる医療機関では対応を要する法律であり、顧問税理士等と対応に向けた協議が進められていると思います。

個人的な意見ですが、医療機関はまだまだ「紙文化」が根強く残っていると感じています。新型コロナウイルスも影響し、最近ではさまざまな仕組みをクラウド化することでペーパーレスを図り、ガバナンスを弱めることなく、効率的な事務処理を進める流れがより強くなっています。クラウド化とは、自社サーバーなどを設置して利用していた既存の情報システムを外部の事業者のクラウドサービスを利用する方式に移行することですが、医療機関でも、さまざまな事務処理をクラウド化し、ペーパーレスを進める動きが少しずつ見えてきました。

今回は、ペーパーレス化が医療機関に与える影響を考えてみたいと思います。

我々がよく監査で発見する問題に、意図的ではない「転記ミス」による誤りがあります。これは、申請書等の証憑を紙媒体で行うことが問題となります。紙媒体の申請書からエクセルで集計し、それをシステムに手入力で反映するといった何重もの作業を繰り返すうちに転記ミスが生じ、正しい結果が出てこない問題が出てしまいます。最初からあらゆるデータがシステムに登録され、その結果が最後の集計計算にまで使用される流れが出来れば、このような問題を回避することは可能になるでしょう。

システム導入によるペーパーレス化を進めやすい領域としては給与計算が考えられます。皆様の医療機関では給与計算はペーパーレスが進んでいますか?給与計算こそ専用のソフトを使用して行われているものの、職員全員の作業が求められる出勤退勤の登録、残業や休暇申請等がまだ紙媒体で行われている医療機関をよく見かけます。これらの作業をクラウド型システム等によりクラウド化し、給与計算システムにそのまま反映することが出来れば、給与計算を誤りなくスムーズに進めることが出来ます。また、残業や休暇申請等をシステム化することで、承認漏れ等を防ぐことにもなり、ガバナンスの観点からも不正な支払を防ぐ効果も期待できます。さらに、年末に欠かせない年末調整も、職員が各種控除をクラウドシステムに登録する流れが出来れば、総務部門の負担軽減に大きく貢献することが出来ます。

システム導入にはそれなりの費用が発生しますが、それ以上に何重にもチェックしなければならない事務職員の負担軽減や保管しなければならない紙資料の煩わしさから解放されるメリットの方が大きいのではないでしょうか。

その他、看護師等の職員がPC等への入力に対応できないから導入が進まないという声も聞きますが、システム移行を医療機関が一度決めてしまえば、その後は何とかなってしまうようです。 医療機関では、給与計算以外にも以下の業務においてシステム導入によるペーパーレス化を進めることで業務の効率性向上とガバナンスが期待できます。

 1.稟議書の電子化(電子申請や電子決裁)
 2. 職員の経費精算(学会や研修等参加旅費精算を含む)
 3. 購買業務(発注・研修・支払業務をシステム化)

電子帳簿保存法による書類保管に関する部分のみの対応だけでなく、給与計算をはじめとする各業務にシステムを効率よく導入し、ペーパーレス化を進めることで、業務の正確性・効率性を向上させることが出来るかもしれません。また、承認漏れを防ぐことでガバナンスの向上も期待できます。

2023年の目標の1つとして「ペーパーレス化」を進めてみてはいかがでしょうか。


【2023. 2. 1 Vol.561 医業情報ダイジェスト】