病院

経理不正が管理責任者に与える影響を考える

自分の病院で不正が生じていたら?
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
三重県にある町立南伊勢病院で発生した元経理担当者による公金横領の件について、2月1日付で、発生した損害に対する賠償責任が発表されました。
元経理担当者は、長年にわたり、病院事業で約1億5,540万円、その前に勤務していた水道事業で約1,250万円、合計1億6,800万円余りを横領していました。町は損害に対し、元経理担当者にはその損害額の7割である約1億1,80 0万円、当時の上司であった上下水道課長及び病院事務長3名には3割である約5,000万円の賠償責任を負わせる命令を行いました。
今回の判断で、私が注目したのは、当事者である元経理担当者だけでなく、損害賠償をその元上司である経理責任者に対しても求めている点です。

監査委員の調査結果からは、今回の公金横領による現金亡失の損害は、元経理担当者とその横領が行われた時期に企業出納員であった職員(元上司)の行為によって生じたものであると判断とされたことがわかります。すなわち、実際に横領をした本人だけでなく、管理監督すべき責任がある上司にもその損害を賠償する責任があると明確に認定されました。

それでは、なぜ元上司に賠償責任があると判断されたのでしょうか。
水道事業では、上下水道課長が企業出納員として、水道事業の預金口座に係る入出金を適切に管理すべき職務を負っていましたが、水道事業の預金口座や届出印を元職員に保管させて自由に使用させており、容易に公金横領が出来る環境を放置していたことから、今回の現金亡失について過失があると判断されました。
また、病院事業では、事務長が企業出納員として、病院事業の預金口座に係る入出金を適切に管理すべき職務を負っていましたが、水道事業と同じく、病院事業の預金口座や届出印を元職員に保管させて自由に使用させていました。加えて、病院事業の経理処理を元経理担当者だけに任せきりにし、預金口座の入出金履歴についてまったく注意を払わず、不自然な会計処理を継続させてしまいました。さらには、収入の調定決裁や預り金勘定の収入支出に基づいた処理などの会計規則に従った手順を取ることなく、元経理担当者の処理を放置し、結果として公金横領を容易に可能とする環境を放置していたことについて過失があると認定されました。
 このことから、公金を取扱う責務の重大性の認識が、直接的に責任のある元経理担当者だけでなく、それを管理・監督する立場の企業出納員等にも欠如していたとして、管理者である企業出納員にも損害賠償責任を負わせた結果となります。
 その他、企業会計を理解した職員の不在により、特定職員を同一部署に長期間勤務させていたことも問題が生じた理由であると監査委員による調査報告書で記載されています。

いかがでしょうか。今回の事例は、非常に単純な問題から元経理担当者が不正を働く結果となってしまいました。大規模な病院であれば、このような杜撰な管理はないと言えるかもしれませんが、中小病院ではまだまだ今回の事例に近い管理体制になっているように思われます。

もし、自分の病院で不正が生じていたら?誰にどこまで責任を求めることが出来るでしょうか。そもそもガバナンスを整備すべき責任は、理事長等の経営者にあります。
 医療を取り巻く経営環境はより厳しくなり、職員を兼務させたり、人員自体を削減し、管理体制をより簡素化する動きは経営を優先する結果として目にすることがありますが、ガバナンスが十分に機能しているかという点も同時に確認していかないと、結果として大きな損失が生まれる原因にもなってしまいます。

今回の事例を教訓に、新年度の組織体制を見直すにあたり、ガバナンスの観点から問題点はないか、改めて再確認されることが望まれます。


【2023. 4. 1 Vol.565 医業情報ダイジェスト】