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監事が年度末に実施すべき業務監査について考える

監査で確認していきたいポイント
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
多くの医療機関では、3月を決算期とすることから、毎年2月あるいは3月に次年度予算及び当年度の決算見込みを議題とした理事会が開催されるケースが多いです。予算の達成見込みや年度当初に実行するとされていた計画の実行状況はどうだったのか、年度末に近づくにつれ、その答え合わせをする時期になります。

自分に対する反省にもなりますが、年度当初に立てた目標や計画を年度末までに目標どおり実施できたと自信を持って言えないものです。個人の目標であっても、法人や各部署の目標であっても、立てた目標すらはっきりと思い出せないことはありませんか。
年度末に近づくと、医療機関の担当者から同じような質問を毎年のように受けます。それは、次のような質問です。

「監事に年度末の監査日程を取っていただきますが、監事には何を見ていただけばいいでしょうか」
 監事が実施する監査は、年度末監査として5月末や6月に実施する監査がメインになると思います。年度末監査の内容は、主に決算数値や財務状況のチェックが中心になりますが、監事を担っている皆さんが会計監査で何をしないといけないのか分からないという声をよく耳にします。
監事の監査は会計監査のほか、業務監査も実施することとされています。業務監査といえば、規程や役員会の開催状況等をチェックするのがメインですが、この他にも事業活動の概要について、あるいは法人が提供する医療・介護サービスの質向上のための取組みなど、法人の経営や管理面に関して監査を行います。
そこで、年度末監査では、法人がこの一年で実施しようとした計画の実行状況やその実行管理、各部署の目標に対する取組み状況について確認することを、会計監査と併せて業務監査として実施してみてはどうでしょうか。

計画に対する進捗管理は、業種に関係なく、しっかりとした管理体制を整備運用している法人もあれば、あいまいなままで終わっている法人もあります。
なお、医療機関では、法人の計画やその実行管理にBSC(バランスド・スコア・カード)等を利用している場合もあります。
監事には、業務監査の一環として、この計画や目標の実行管理を監査手続の一つとして加えてみてはどうでしょうか。

  • 計画や目標を策定しているか
  •  計画や目標の設定対象(法人全体・施設別・部署別)は適切か
  •  計画や目標の進捗管理(報告体制・管理方法)は達成を実現する上で十分な仕組みとなっているか
  •  計画や目標を達成しようとする動機・インセンティブに十分は配慮をした取組みになっているか
このような項目が監査で確認していきたいポイントになります。

監事としても、理事会だけでなく、このような計画や目標に対してより深く掘り下げて確認することで、法人のことをより理解できるだけでなく、法人が抱えている課題や達成困難な要因が見えてきます。その解決に向けて1年間取り組んだ結果が、会計に反映されます。当初実施しようとした計画の理解やその実施状況の理解を通じて、財政状態や経営状況の理解が深まり、会計が全て理解できない中でも、監査を効率的・効果的に実施することに寄与します。

私も医療機関の監事として、また、会計監査人として医療機関を監査する場合には、計画との対比から数値を理解する手続は大切にしています。
計画や目標の達成状況や進捗管理について、監事が監査手続に加えている事例は確かに多くはありませんが、監事がここまで業務監査として踏み込んだ監査をすれば、法人のガバナンス体制を強化するきっかけとなる効果が期待されます。

ぜひ、この年度末の監事監査が少しでも法人にとってプラスとなるような監査になることを期待します。


【2023. 5. 1 Vol.567 医業情報ダイジェスト】