病院

公立病院の繰入金について考える

あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
前回は、全ての公立病院が総務省の求めに応じ、令和4年度又は5年度中に、「公立病院経営強化プラン」として、経営強化に向けた事業計画を策定していることについて触れました。今回は、公立病院に対し、各自治体からどのような運営資金(繰入金)の支援がされているのかについて、考えてみたいと思います。

【繰入金】
公立病院は地方公営企業の一つとされ、原則として独立採算を求められています。しかし、一方では、地方公営企業法の第17条の2により、特定の条件を満たす経費については、自治体が公営企業への繰出金(公立病院から見た場合は繰入金)として、経費を負担することとされています。これにより、自治体の多くが政策医療にかかわる経費に対して、負担金等名目で公立病院に運営資金の繰入れを行っています。

【繰入金の根拠(地方公営企業法第17条の2)】
第17条の2 次に掲げる地方公営企業の経費で政令で定めるものは、地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において、出資、長期の貸付け、負担金の支出その他の方法により負担するものとする。
一 その性質上当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てることが適当でない経費
二 当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行なつてもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費
2 地方公営企業の特別会計においては、その経費は、前項の規定により地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において負担するものを除き、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てなければならない。

【増え続ける公立病院への繰入金】
総務省による「地方公営企業決算状況調査」では、2020年度における公立病院への繰入金等の合計額は8,495億円とされており、毎年増加傾向にあります。
コロナ対応に関する繰入金等も考えれば、繰入金額は引き続き増加傾向にあるとみられます。
自治体の財政状況が厳しくなる中、公立病院への財政支援が大きな負担となっています。

【繰入金の対象となる経費】
経費負担区分のルールについては、毎年度、総務省より「繰出基準」※1として総務省から通知されています。繰出基準に基づく繰入金は基準内繰入金、繰出基準以外の繰入金は基準外繰入金と呼ばれます。
※1 最新では「令和5年度の地方公営企業繰出金について」(令和5年4月3日付け総財公第28号)で通知されている

公立病院事業では、以下の17項目に要する経費について、繰出基準が定められています。
  1. 病院の建設改良に要する経費
  2. へき地医療の確保に要する経費
  3. 不採算地区病院の運営に要する経費
  4. 不採算地区に所在する中核的な病院の機能の維持に要する経費
  5. 結核医療に要する経費
  6. 精神医療に要する経費
  7. 感染症医療に要する経費
  8. リハビリテーション医療に要する経費
  9. 周産期医療に要する経費
  10. 小児医療に要する経費
  11. 救急医療の確保に要する経費
  12. 高度医療に要する経費
  13. 公立病院附属看護師養成所の運営に要する経費
  14. 院内保育所の運営に要する経費
  15. 公立病院附属診療所の運営に要する経費
  16. 保健衛生行政事務に要する経費
  17. 経営基盤強化対策に要する経費
繰入金の具体的な繰入額の算定については、各自治体の判断に委ねられています。従って、各自治体では対象経費(繰出項目)毎に総務省が示している積算基準例(①地方財政計画の積算、②地方交付税の積算基準、③歳入歳出の実額によるもの)を参考に、実態に即した算定を行い、繰入額を計算しています。
民間病院では採算性が厳しいとされる小児・周産期医療の維持に必要な経費のほか、高度な医療の実施に要する経費、救急医療の確保に要する経費などについて、地域に必要な医療を維持するため、公立病院が果たすべき医療に対する経費を措置する目的として繰入金が充当される点が特徴となっています。
その他、最近では経営基盤強化対策に要する経費として、①医師及び看護師等の研究研修、②公立病院経営強化の推進、③医師確保対策に要する経費なども、繰入金の対象となっています。医師確保対策に要する経費としては、医師の勤務環境改善、医師の診療所等への派遣経費、遠隔医療システムの導入に要する経費等も対象とし、公立病院としての役割期待に沿った事業を支援するための費用措置がなされています。

【機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備へも支援】
繰入金のほか、公立病院経営強化プラン策定に伴い、医師不足や人口減少に伴う医療需要の変化に対応し、持続可能な地域医療提供体制を確保するため、地域の中で各公立病院が担うべき役割・機能を見直すことが求められています。この見直しにより、公立病院の機能分化・連携強化に係る設備・整備については、その事業費用として発行する病院事業債の償還金に対し、普通交付税の措置を図るとされています。これにより、複数病院の統合や複数病院の相互の医療機能の見直しが進められています。


【2024. 3. 1 Vol.587 医業情報ダイジェスト】