病院

なくならない医療機関の不正

薬剤師が地域で活躍するためのアクションプランから
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
2022年6月下旬、三重県内の町立病院で会計を担当していた職員が、患者から受け取った診療費などから約1億5千万円を着服していたことが町の調査で発覚しました。記事を目にされた方は多いのではないでしょうか。読者の方々とっても記憶に新しい記事であると思います。
本件は、公立病院で生じた不正であり、また、影響額も多額であるために全国的にも報道される案件となりました。しかし、私は医療機関で生じる不正のうち、公表されるのはほんの一握りであり、実は、医療機関は不正発生リスクが高い組織であると感じています。私は、公立公的医療機関をはじめ、民間医療法人の会計監査をこれまでに多く経験し、大小さまざまな不正あるいはその兆候を目にしてきました。
当然、一般企業でも着服や横領をはじめとする不正行為は起きてしまいますし、どの法人や団体でも不正が生じる可能性はあります。どのような不正にも発生した背景には様々な原因があるなか、医療機関で生じる不正は、特に中小クラスの一般企業と不正発生原因が似ているのではないかと考えます。

これは、クリニックから病院までの規模で比較した場合でも、医療機関が整備する管理組織は中小クラスの民間企業で整備する人員や組織に近い構成をとっているからではないでしょうか。
中小クラスの一般企業を参考に、医療機関における不正発生リスクを考えた場合、以下の共通点があります。

 職務が1人の職員に集中
多くの医療機関では、管理部門は極力職員を少なくし、費用を抑えることを優先した体制をとることから、日常業務を細分化し、複数の従業員に分担させることは難しくなります。従って、特定の職員にまとまった職務を任すことで、結果としてその職務について一切の権限を持ってしまう場合があります。また、理事者をはじめとする経営者は、自らの医療機関のことをよく知っている長年勤務している職員に対し、過度に信頼を寄せ、職務を任せきりにする傾向が強くなります。
つまり、業務の属人化、ブラックボックス化が進むことで、日常業務を理解把握することがより困難となり、経営者のチェックが入りにくい体制が、不正を引き起こす可能性をより高くしているといえます。また、このような職員が現預金をはじめとする法人資産の流用、外部業者との癒着を図るなどの契約行為を通した不正が行われていても発見されないことが往々にしてあります。冒頭の町立病院の不正の発生要因はこの問題が大きいと考えられます。

 経営者が経営面や金銭面にルーズである
医療機関では、経営者自身が医療機関のオーナーであることが多く、その場合、経営者は医療機関の財産を自らの裁量で使うことができる立場にあります。しかし、このような公私混同は医療機関内部にルーズな雰囲気を生み出します。経営者は自らの襟を正すべきにも拘らず、ルーズさの元凶になってしまっては、もはや経営者に期待することはできません。
医療機関特有の傾向として、経営者自らが注力している医療領域やサービスには収支バランスを顧みない投資を行う、特に、病院の建替時等では、自らの想いだけで病院建設を進めるあまり、経営を無視した投資を経営者の独断で進めてしまうことがあります。その他、有価証券購入や経営者自らが応援する企業等への投資に目が向いてしまう、法人で高級車や絵画など本業との関連性が低い嗜好性の高い資産を購入するような医療機関は、医療機関全体が金銭面にルーズであるケースが多いのも事実です。職員による不正を誘発する環境を経営者自らがつくり出しているのです。

 不正を防止する仕組みが十分でない
医療機関では、大企業のような業務管理体制を構築することは物理的にも経済的にも厳しく、後回しになる傾向にあります。管理部門も慢性的な人材不足になりがちであり、システム投資等も医療を優先し、管理は後回しとなるのが現状です。その結果、組織に十分なチェック機能が構築されることなく、結果、適切な承認に基づかない取引が実行されるなどいわゆるガバナンスが不十分な医療機関が多く、経営者の不正に対する意識も低いままになりがちです。このような医療機関では、当然に不正発生リスクが高くなります。

次回は、さらに、医療機関特有の課題から不正発生リスクを考えてみたいと思います。


【2022. 8. 1 Vol.549 医業情報ダイジェスト】