保険薬局

薬剤師の専任業務って何だろう?

薬剤師としての新しい業務を手に入れることが先決ではないのだろうか
開局薬剤師 岡村 俊子
昔、先輩薬剤師から「薬剤師は何歳になってもできる仕事だ」と聞いた。
別の先輩薬剤師からは「薬剤師は街の科学者だ」と聞いた。
また別の先輩薬剤師からは「薬剤師は薬のことも、栄養のことも、軽微な症状の臨床判断による薬の販売など、いろいろ関われる」とも聞いた。

確かに、ひと昔以前はそうだったかもしれない。だが、これだけ情報が充足していてAIが日常に入ってきている現在はどうだろうか?
薬剤師の免許自体は一生継続だが(そのうちに更新制になるかもしれないが)、今まで得た知識や経験はネットで入手可能であることが増えた。Chat GTPにより、それらしい文章作成も可能になってきた。
今まで薬剤師の業務と思っていた対物業務は薬剤師の管理のもと、薬剤師以外の職員を活用することが可能になり、ヒューマンエラーを防ぐために調剤機器に委ねることも実行されつつある。

<薬剤師の対物業務>
  • 調剤
  • 薬の在庫管理
  • 処方箋入力
  • 薬袋の作成
  • 報酬の算定
  • 必要な書類の記入や処理
  •  オンライン服薬指導(7月31日までは電話でも可)後の配達 など

 では、薬剤師が行うべき対人業務とは何だろうか。

  • 処方監査
  • 疑義照会
  • 服薬指導
  • 調剤後の服薬フォロー
  • 患者とのコミュニケーション
  • 他職種とのコミュニケーション
  • 健康相談 など

だが、今進めようとしている電子処方箋により、薬の重複や併用禁忌は薬剤師やお薬手帳を介さずとも医師も見ることができるようになる。病院薬剤師は薬局薬剤師に電話で問い合わせしなくとも、入院時の持ち込み薬を閲覧可能になる。SNSを利用した服薬フォローもフォローには違いない。自分の薬の情報はスマホで検索できる。

実際、上記のことは同じ薬局内ではすでに実施している薬局も多いと思う。経営者目線で考えると、同じ業務を割安な賃金の職員に担当させ、賃金の高い薬剤師を最小限に減らすことができる。
浮いた時間を薬剤師の自己研鑽に利用させることや、(会社によっては)薬剤師が副業する時間に充てることも可能だ。薬局の外に出て、在宅医療や地域医療に時間を取ることもできる。調剤の自動機械化や調剤の一部を分担すること自体は、薬剤師しか関われない業務にあたる時間を確保するために今後は必要かもしれない。しかしそれは「対物業務の機能」や「薬物治療の知識」が土台にある場合はよいが、それらの業務に関わらなくなることによって無関心・無知を引き起こすことにも繋がる。処方枚数を多くこなしていくことが営業利益を生むことには変わりなく、結局流れ作業になることも考えられるのではないだろうか。

コミュニケーション能力は人間力でもある。傾聴、洞察力、交渉力、幅広い知識、人脈、熱意等が求められる。だが、薬の専門性を除けば、それは薬剤師以外の職員でも可能だ。薬剤師でも可能と思っていた業務は中途半端な知識では専門職にかなわず、反対に薬剤師にしかできないと思っていた業務は次々と引き剝がされている。背負っていた荷物を他の人に肩代わりしてもらって良かった!と言っている間に身ぐるみ剥がされていた……などということがないように、薬剤師としての新しい業務を手に入れることが先決ではないのだろうか。


【2023.7月号 Vol.326 保険薬局情報ダイジェスト】