保険薬局

薬局が在宅医療に参入する利点と課題

在宅医療の未来展望
一般社団法人薬局支援協会 代表理事 薬剤師 竹中 孝行
私が在宅医療に特化した薬局を開業してから6年が経過しました。全くゼロの状態からスタートしたものの、優秀な仲間に恵まれ、少しずつ地域からの信頼を積み重ねるとともに訪問件数を増やしてきました。地域のなかで在宅医療の需要が高まっていることを肌に感じています。
今回は、終末期のケアに携わることも多い、個人宅を中心とした在宅医療を行なっているなかで、あらためて参入してよかったと思う利点や率直に感じている課題について共有させていただきます。これから在宅医療に参画していきたいと感じられる薬局の方も多いと思いますので、ぜひともご参考ください。

■在宅医療の需要について

地方や都心など地域特性はあるものの、高齢化社会の進行に伴って、在宅医療の需要が高まっていることは言うまでもありません。今後の人口構成の推移をみても、当面は伸び続けることが予想されており、ご自宅での服薬管理や個別化されたケアへのニーズに対して、薬局が介入していく価値は高まっています。需要に対して、供給側である薬局が追いついていない現況も感じており、まだまだこれからの市場だと感じます。

■参入してよかったと思う利点

・薬剤師の活躍の舞台が拡がる
患者さんのご自宅に訪問し日々の暮らしを把握できると、薬剤師が介入できることの幅が拡がります。ご家族含め、得られた情報から、医師や看護師、多職種の方との連携をとり、チーム医療の一員として患者さんを支えていくことは、薬剤師にとって大きなやりがいとなります。より個々のニーズに合わせた服薬管理を提案したり、薬の効果や副作用のモニタリングを綿密に行うことで、より適切な治療に繋げることができるのも在宅医療ならではのやりがいだと考えます。

・経営的な視点として
経営的な視点においても利点は感じています。地域支援体制加算などの要件としても、在宅医療は今後注力されていく流れがありますし、在宅医療に関する加算も増える傾向にあります。
また、在宅医療の場合は、門前の病院やクリニック等の立地に依存せず、処方せんの枚数を増やしていくことができます。薬局の人員体制やスペースの余地によって件数を増やしていける上限はありますが、薬局の売上を構成する新たな収益源となり得ます。

■率直に感じている課題

・初期投資と運営コスト
在宅医療を本格的に始めようとすると、初期投資がある程度必要になります。性能の高い分包機、薬歴や報告書作成等の記載を効率化させるようなシステム、場合によっては、無菌調製室などの設備が必要になるかもしれません。また、外来対応と比較すると、在宅医療は効率性が高くないため、運営コストが増える傾向にあります。夜間や休日などの対応、オンコール体制なども必要になります。どのように薬局内のフローを構築して、業務を効率化していくかというのも、大きな課題となります。
在宅医療の件数が順調に増えていき、投資分を回収できるまでには、ある程度の期間が必要になります。

・人材採用と育成
在宅医療をはじめるなかで、立ち上げ期には、経験値の高い薬剤師の採用が必要になることも多いです。望むような人材をすぐに集めることは難しいため、在宅医療で活躍できる薬剤師を育成するための研修や意識の共有も大切になってきます。また、店舗内の情報共有も精度とスピードが求められる場面が多く、薬剤師だけではなく、薬局スタッフ全体の役割も重要になります。
患者さんや地域からの信頼を培っていくのは、結局は“人”になりますので、どのようにして人材を集めて、育んでいくかというのはとても重要な観点です。

■在宅医療の未来展望

今後、地域の在宅医療において、薬局・薬剤師が求められる場面も増え、活躍できるフィールドがますます拡がっていくことは間違いありません。また、需要の高まりとともに、在宅医療の件数もますます増えていくことが予想されます。そういったなかで、在宅医療を進めていくことは、薬局として大きな武器になり得ますし、薬剤師の可能性を拡げていくことに繋がります。
一方で、在宅医療を本格的に始めていくためには、運営コストや人材育成などの大きな課題もあり、そこをどうクリアしていくかが求められてきます。また今後、在宅医療に参入する薬局が増えてきたときに、選ばれる薬局になるためにはどうすれば良いか。私としては、地域の信頼を得られるように薬局の外に出て、行動をおこしていく必要があると感じています。


【2023.12月号 Vol.331 保険薬局情報ダイジェスト】