保険薬局

(27)よく来たね、新人さん①

安心して育つ土壌作り
薬剤師 産業カウンセラー 荒井 なおみ
この時期は、新人さん(新卒者、未経験者、異動者など)を迎え、新鮮な日々を過ごされている職場も多いことでしょう。人の成長は環境に左右されます。安心して働ける職場ならモチベーションが上がり、同じ時間働いてもストレスが少なく、元気に働くことができます。生産性は向上し、離職率は低くなることでしょう。

1.人を迎えるということ

人を迎えるということは、受け入れ側にとっても環境の変化をもたらします。変化は緊張を伴いますし、緊張すればストレスになります。新人さんだけでなく、受け入れる側も緊張し、双方でストレスが溜まってしまう恐れがあります。可能な限り“もの”を準備し“環境”を整えて、気持ちよく迎え入れるようにしたいものです。新人さんを受け入れる際に準備すべきものや手順をリスト化しておくと、誰もが迷わず、もれなく行うことができます。

もの(見えるもの)
ユニフォーム、ロッカー、印鑑、タイムカード、名札、業務手順書、文房具 など

環境(見えないもの)
教育体制(現場では特にOJT)、電子薬歴の登録など登録が必要なもの、勤務シフト、職場のルール など

教育は調剤未経験の方だけでなく、すべての新人さんに対して行いましょう。「その職場は初めて」という方を対象にします。ですから、ベテランで経験者採用した方も、社内で異動して来た方も対象となります。もちろん一人ひとりの技量には差がありますから、かける時間や難易度は異なります。今まで私が受けた相談の中にも、経験者採用の方から「初めて経験することなのに教えてもらえなかった」「できないんですかと驚かれた」「すぐにいろいろ任された」など、経験者であるがゆえに生じたトラブルがいくつもありました。教える側も相手が経験者の場合、どのように何を教えたらいいか分からず「わからなかったら質問してください」で終わらせていたケースもありました。また、「こんなことを教えたら悪いのではないか」と気を使って教えられなかったという管理者もいました。

2.職場で覚えておきたい3つのスキル

ところで、下記のような会話を耳にしたことがありませんか。

Aさん: 〇〇さんは、仕事はすごくできる人なんだけど、ちょっと態度がきつくて…。まわりが参っているんですよね。
Bさん: あ~、〇〇さんね! あれじゃみんなとうまくやっていけないですよね。だけど、言うことは間違っていないから誰も何も言えないんですよ。

話題の人物「〇〇さん」がそのような態度を取るにはそれなりの理由やご本人の事情があるのかもしれませんが、今回は職場でみんなと一緒に気持ちよく働くためのスキルという視点で見ていきたいと思います。もちろんスキルはあくまでスキルですから、お互いを支え合う気持ちや仕事に誠実に向き合う態度などが前提にあることは言うまでもありません。

「あるある」かもしれないこの状況に対し、本日紹介するカッツモデル(Katz model)が参考になるかもしれません。1955年「ハーバード・ビジネスレビュー」で発表された、ロバート・L・カッツによって提唱されたスキルに着目した理論です。

<カッツモデル>
①テクニカルスキル:業務を遂行するために必要な専門知識や能力
②ヒューマンスキル:リーダーシップやコミュニケーション能力のように、他者との良好な人間関係を構築・維持するために必要な能力や技術
 ③コンセプチュアルスキル:物事の本質を理解して判断するための能力(例えば、ロジカルシンキング、多面的視野、問題解決力など)
*各スキルの説明:出展「website:日本の人事部」

立場によって求められるスキルの割合は異なりますが、「仕事ができる人」という場合は①だけを指して言うのではなく、②③も含めて考えなければなりません。もし①だけの方がおられるようなら、職場で求められるスキルは①だけでなく、②も③も必要であることを伝えていただきたいと思います。誰もが①②③を意識することで、自身の成長と元気な職場作りに繋がることでしょう。

3.安心して育つ土壌作り

さて、新人さんが職場に慣れ、成長し、持てる力を発揮できるよう、私たちは何をしたらよいのでしょうか。

  1. 教育を見える化する → いつ・どこで・誰が・何を・どのように教育するのか、誰もが(もちろん新人さんも)分かるようにしておきましょう。全体像を見せ、今どの位置にいるかを知らせましょう。
  2. 肩の力を抜くこと → 心配なときや不安なとき、誰もが身構えます。こちらが緊張すれば相手も緊張します。相手が緊張すればこちらにもその緊張が伝わります。深呼吸して、肩の力を抜きましょう。
  3. 成長が実感できる職場であること → 特に新卒さんは、この職場で自分は成長できるだろうかと考えます。目標を立て、段階を踏んで、愛をもって育てていきましょう。

今回は新人さんを迎える際に心がけたいことを考えてみました。ご参考になれば幸いです。


【2024.7月号 Vol.338 保険薬局情報ダイジェスト】