保険薬局

(4)大きな調剤事故が起きたとき

相談しやすい職場ですか?
薬剤師 産業カウンセラー 荒井 なおみ
今年6月末、モルヒネ100倍投与による死亡事故の報道に接した方は多くいらっしゃるでしょう。「医師が電子カルテの入力を誤って必要量の100倍を処方し、薬剤師は処方箋をよく確認せず(処方箋通りに)調剤した」とのこと。このような死亡事故のみならず大きな事故が起きたとき、私たちは動揺し仕事が手につかなくなってしまいます。常日頃どのように向き合えばよいのでしょうか。

1.相談しやすい職場ですか

①上司や同僚等に報告・相談できる体制
ミスをした、あるいはミスをしてしまったかもしれないというときに、速やかに同僚や上司に相談や報告をすることができるでしょうか。一人で抱え込まず、放置せず、同僚や上司に相談し、必要な行動を取ることが大切です。「報告や相談?!そんなこと、当たり前ですよね。」と誰もがいつでも言えたらいいですね。分かってはいても、速やかな相談や報告が難しいこともあります。薬局内の人間関係、薬局長とその上司の人間関係等に大きく影響されるからです。職場の人間関係を良くすることは、ミスが起きたときの速やかな対応に繋がります。

②すぐに調べる、遡って確認できる環境
ミスかもしれないというとき、すぐに調べることが出来るでしょうか。整理整頓し保管された処方箋や調剤録なら、すぐに原本を取り出すことができます。鑑査システムが発行したジャーナルを再度確認できれば何g秤量したかを知ることができます。調剤薬を写真撮影していれば、実際患者さんにお渡しした薬の内容を見ることができます。調剤印等を調剤終了後速やかに押しているでしょうか。誰が調剤し監査したのか明らかになり、状況を聞くことができます。速やかに確認することが出来れば、一刻も早く患者さんやご家族、医療機関にミスをお知らせし、最も適した対応をとることができます。

③処方医へ相談や問い合わせをしやすい環境
処方医に連絡しても対応がぶっきらぼうだったり、全く耳を傾けてもらえなかったりすると、だんだんと問い合わせをするのが嫌になってきます。しかし、実施しなければ調剤事故に繋がるかもしれません。患者さんの安全を守るため、まずは薬局としてできることを探してみましょう。
★薬剤師側に問題がないか
・礼儀がない
・話が分かりにくい
・薬学的知識が乏しい 等
★薬剤師に余裕があるか
・仕事の充実感
・笑顔で話せる同僚
・打たれ強い心 等

2.処方箋監査を行っていますか

私は現在週1日程度調剤業務をしているに過ぎませんが、その中で感じているのは『処方箋監査』の大切さです。計数調剤や計量調剤は手順に則って、慣れればそれなりの業務を行うことができます。いつも冷や冷やしているのが、『私は処方箋監査を出来ているのか』ということ。薬用量の中でも特に小児薬用量は気を使います。内服ならまだしも外用薬の1回量は見落としやすい気がします。年齢による処方薬の選択が適切にされているかなども気になるところです。
初回お伺い票や服薬指導時に収集した患者情報を『処方箋監査に生かしているか』についても心配の種が尽きません。先日も患者さんと話していて「1日8時間仕事で車を使う。服薬期間中に車の使用を避けられない」ことが分かりました。患者さんには運転禁止薬が処方されていたため問い合わせをした結果、当該薬剤が中止となりました。

Point:『処方箋監査』を行う時間や場所を十分に 確保できているか。

3.事故が起きた際のスタッフのケア

関係したスタッフ、特に当事者であれば自分自身を責めることでしょう。なぜ処方箋の間違いに気が付かなかったのか、なぜ他のことに気を取られてしまったのか、なぜあのときいつもと違うことをしたのか。なぜ、なぜと悔やんでも悔やみきれません。当事者のケアを行いつつ、事故対応に当たることが大切です。
①落ち着くよう声かけする → 薬局全体で、組織全体で対応していくことを伝えましょう。状況によっては一時的に業務から外すことも必要です。
② 初動は管理者や上位者が行う → 大きな出来事があった場合、当事者は適切な判断を下せないことがあります。まずは管理者や上位者が対応しましょう。患者さんのお宅へ出向く際は、当事者が一人で赴くのではなく、管理者に同席する形が良いと思います。
③関係者に対し個別のケアを行う → 以前職場の近くの薬局で大きな調剤事故が起きました。幸い患者さんは全員が快方に向かいました。この事故との関連性は不明ですが、勤務薬剤師が自ら命を絶っていたことが後から分かりました。大きな出来事がきっかけとなり抑うつ症状が現れ、最悪の事態に発展することもあります。メンタルケアは非常に重要であり、体調が悪ければ専門家に繋げるなどの対応が必要です。

今回は、大きな調剤事故に関連し、薬局でどのようなことが出来るかを考えてみました。皆様の振り返りのきっかけになれば嬉しいです。


【2022.8月号 Vol.315 保険薬局情報ダイジェスト】