保険薬局

税理士の提案が異なる理由

情報過多時代における留意点
アシタエ税理士法人 税理士 薬剤師・認定登録医業経営コンサルタント 市川 秀
調剤薬局の経営において、税理士の存在は非常に重要です。多くの経営者が、税理士はただの 「数字の専門家」 だと考えがちですが、実際にはその役割ははるかに広範で、経営全体に深く関わっています。特に調剤薬局業界は、薬価改定や医療制度の変更など、外部環境の変化が経営に大きな影響を与えるため、税理士の助言が経営判断に直結することが多々あります。
本稿では、税理士の提案がなぜ異なるのか、その背景にある理由を探りながら、調剤薬局の経営者がどのように税理士と連携を深めていくべきかについて考えていきます。税理士の提案内容が一律ではなく、個々の企業の状況や目標に応じてカスタマイズされる理由を理解することで、経営者は自社にとって最適な判断を下すための基盤を築くことができるでしょう。

税理士の提案が異なる理由

税理士による提案が異なる理由の一つに、税法の複雑さと多様性があります。税法は時折改正され、またその解釈や適用方法も様々です。そのため、同じ数字や財務状況を前提としても、税理士が異なる提案をすることは珍しくありません。
さらに、税理士は単に税負担を少なくするだけでなく、会社の長期的な成長や持続可能性を考慮しながら提案を行います。そのため、提案内容は、経営者の目指すビジョンや会社の成長フェーズ、資金調達の必要性、さらには株主や金融機関への報告義務など、多岐にわたる要因によって大きく異なるのです。これにより、税理士ごとに異なる戦略やアプローチが必要とされ、それが提案の違いとなって現れます。

ケーススタディ:異なる役員報酬の設定

調剤薬局A社とB社を例に、役員報酬の設定がどのように異なるかを見てみましょう。A社は創業して数十年が経ち、そろそろ二代目に交代する時期に差し掛かっています。一方、B社は最近設立された新進気鋭の調剤薬局です。
A社とB社は、同じような売上と利益を持つ薬局ですが、A社の役員報酬は2,000万円で、B社は800万円と大きく異なります。A社の経営者は「同じくらいの規模なのに、B社の税理士は800万円の報酬を提案している。なぜ、うちは2,000万円なのか」と疑問を抱くかもしれません。しかし、この差には明確な理由があります。

A社はすでに成熟した段階にあり、事業承継や後継者への譲渡を視野に入れた戦略を取っています。この場合、役員報酬を高めに設定し、後継者に適正な価格で事業を譲渡するための準備を進めることが重要です。一方、B社は成長期にあり、銀行からの融資を受けやすくするために利益を多く計上し、費用を抑える戦略を採っています。このように、役員報酬の設定ひとつをとっても、会社の成長フェーズや将来的な展望に応じて税理士の提案は異なります。


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【2024.10月号 Vol.341 保険薬局情報ダイジェスト】