保険薬局

薬局が患者さんの立場になって考えること

医薬品の供給不足が治まらない
開局薬剤師 岡村 俊子
オンライン資格確認に関する調剤報酬として2022年度改定で新設された「電子的保健医療情報活用加算」が9月末で廃止になる。この加算は、電子資格確認により、患者の薬剤情報等を取得したうえで調剤を行った場合に3点(月1回に限り)、薬剤情報等の取得が困難な場合には1点(3カ月に1回限り)を算定できるというものだが、患者にとっては国が推進する保険証確認を行うと一部負担金が高くなるという矛盾があった。おくすり手帳導入時に、せっかく、おくすり手帳を持って行った患者さんの一部負担金が高くなったのと同じだ。なぜ調剤報酬を検討する際に患者側の立場になって想像できないのか不思議だ。

10月からは新たに「医療情報・システム基盤整備体制充実加算1,2」が導入される。同加算1(3点、6か月に1回限り)は調剤に係る十分な情報を取得する体制として施設基準を満たす薬局で調剤を行った場合に算定でき、同加算2(1点、6か月に1回限り)は電子資格確認によって患者に係る薬剤情報を取得した場合に算定できるが、実際にマイナンバーカードを持ち歩く患者は少ないため算定できる薬局は限られると思う。
やはり、マイナンバーカードに健康保険証を組み込まないと、わざわざマイナンバーカードを持ち歩く患者さんは少ないと予想されるので、国は健康保険証としての利用申し込みでマイナポイント7,500円分のポイントを受け取れる!とアピール中だ。薬局として業務上のメリットは「処方されている薬」「特定検診の受診歴」がわかるため、重複投薬や相互作用の確認が可能になり、特定検診の検査値を踏まえた処方内容の確認や服薬指導が可能になる・・・というものだが、今のところ紙・電子お薬手帳や患者が見せてくれる検査値でもそれほど困らず、強いメリットがあるのかどうかは使ってみないと不明だ。
やはりマイナンバーカードの普及ありきの政策だと思うが、義務化と決まったからには対応せざるを得ない。

さて話は「近い未来」から「9月上旬の今」に変わるが、医薬品の供給不足が治まらない。普段の調剤に用いる医薬品の供給不足に加えて、さらにカロナール(アセトアミノフェン)のような解熱鎮痛剤、抗炎症作用のあるトラネキサム酸、鎮咳去痰薬であるデキストロメトルファン、はては葛根湯、麻黄湯、小青竜湯、補中益気湯にまで出荷調整がかかってきた。思えば新型コロナウイルスが流行し始めたときにマスク、消毒用エタノール、イソジンうがい薬等が品不足となり、ほんの1、2か月前は抗原検査キットが品薄だったが、今回のように急性期風邪症状に対応する医薬品までが不足するのは異常事態だ。私が所属する地域の休日急病診療所でも週末ごとに医薬品確保に苦労している。特にカロナール細粒の不足が酷い。ほぼ発熱患者しか受診しない今の時期に肝心の対処療法薬がないのではお話にならない。試しにカロナール錠を粉砕して乳糖を添加して舐めてみたが苦みしか感じず、これでは乳幼児は服薬できないだろうと思った。

新型コロナウイルスは感染症災害の一つであるが、災害の大小にかかわらず上記のような急性期疾患用災害備蓄品ともいえる医薬品の確保は都道府県や市町村主導での確保が望ましいのではないだろうか。病院や薬局は薬がないと診療も調剤もできないので平時よりも余分に確保したくなる。薬がないとなると患者さんに合わす顔がないからだ。
また、重症化リスクのない発熱患者(特に若年層)は医療機関を受診せずに、抗原検査キットを無料配布協力薬局で入手し、陽性ならオンライン診療を自分で探して受診することになっている。だが陰性の場合は自宅で安静にするしかない。「抗原検査キットでは陰性でしたが熱や咳がある場合はどうしたら良いですか?」という電話を何回受けただろう。そのたびに「普通の風邪症状の時に服用する風邪薬で大丈夫ですよ。無ければ販売しますからご家族がご来局ください(もしくはお届けします)」と案内したが、そう指導するだけで患者さんは安心するのだ。受診すら儘ならない状況の中、薬局は患者さんの立場に立って、安心を提供することができると思う。


【2022.10月号 Vol.317 保険薬局情報ダイジェスト】