病院・診療所

医療法改正と診療報酬改定は車の両輪

診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■「医療法等の一部を改正する法律案」 が国会提出へ

「2040年問題」 とは団塊ジュニア世代が65歳を迎え、総人口に占める高齢者の割合が過去最大の約35%(2024年29.3%)に達することで起きる諸問題のことだ。高齢化による高齢者人口の増加と、少子化による労働人口の急減が同時進行で起こり、日本経済や社会保障の維持が危機的状況に陥るとされている。政府は2040年問題に対応した医療提供体制を確保するため、医療機関機能報告制度の創設などを盛り込んだ 「医療法等の一部を改正する法律案」 (医療法等改正案)を2025年2月14日に閣議決定して国会に提出した。
医療法改正と診療報酬改定を混同している場合がある。診療報酬改定は原則として2年に1回、偶数年に行われ、改定年の2月上旬~中旬ごろに中央社会保険医療協議会(中医協)が厚生労働大臣に答申する。答申を受けて厚生労働大臣が3月上旬に診療報酬改定にかかる告示・通知を発出して次年度の診療報酬が決まる。健康保険法上の位置づけであり、医療法改正のように2年に1回の改定の度に国会で法案を成立させる必要はない。
医療法とは病院、診療所、助産所の開設、管理、整備の方法などに関する法律であり、1948年の制定以来、過去8回の改正が行われている。ミクロの医療施設等に関する規制とマクロの医療提供体制を構築していく役割を持つ。診療報酬は厚労省保険局、医療法は医政局が担当であり、所轄は違うが、両者は車の両輪であり、経済的側面(診療報酬)と法的側面(医療法)から、医療提供体制を政策誘導していく。医療機関経営にとって診療報酬改定は速効性があるストレートパンチであり、医療法は改正時にはさほど問題ないが、後ほどじわりと効いてくるボディブローになる。

■医療法改正案の3つの軸

今回の医療法改正案の3つの軸は(1)地域医療構想の見直し等、(2)医師偏在是正に向けた総合的な対策、(3)医療DXの推進となる。(1)地域医療構想の見直し等では、2024年12月に取りまとめられた 「新たな地域医療構想」の実現に向け、地域医療構想を病床だけでなく、入院・外来・在宅医療、介護との連携を含む将来の医療提供体制全体の構想と医療法上に位置づけて、 「医療機関機能報告制度」 を創設する。
同制度では医療機関に 「高齢者救急・地域急性期機能」  「在宅医療等連携機能」  「急性期拠点機能」 などの報告を義務付ける。他にも地域医療構想調整会議の構成員としての市町村の位置づけを明確化して、都道府県の役割も示している。新たな地域医療構想は入院医療に加えて外来・在宅、介護連携等も新たな対象に加え、 「治す医療」 と 「治し支える医療」 を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療・介護提供体制を構築するために取りまとめられた。また、オンライン診療を医療法で位置付けて推進する。

■医療DX推進はドッグイヤーのごとく進んでいく

(2)医師偏在是正は厚生労働省令で定める指標を参考に、外来医療の提供体制が特に過剰な区域を都道府県知事が指定・公表することを明示した。同区域内に無床診療所を新規開設する場合は、地域において特に必要とされる外来医療(地域外来医療)を提供する意向を開業6カ月前までに都道府県知事に届け出る方針としたほか、地域外来医療の提供を都道府県知事が要請できるようにするなどの規制強化策を盛り込んだ。
財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会(財政審)では、医師偏在対策のため過剰地域の診療所点数を1点10円ではなく、9円といった引き下げが必要という 「ディスインセンティブ」 措置を主張している。ただし、これは1点10円という原理原則を変えることになり、日本医師会も強行に反対しているため診療報酬改定において実現は難しいであろう。
(3)医療DXの推進では社会保険のレセプト審査支払機関である 「社会保険診療報酬支払基金」 を組織体制や名称を含めて抜本的に見直し、医療DXの運営に係る母体として位置付ける。医療ビックデータ分析も行うことになる。診療報酬では2024年改定で創設された初診料に対する 「医療DX推進体制整備加算」 がある。同加算のマイナ保険証利用率は2024年6月~9月では施設基準に利用割合なしだった。2024年10月~12月は15%、10%、5%の3区分、2025年1月〜3月(現在)は30%、20%、10%の3区分の点数になっている。さらに2025年4月〜9月はギアをもう一段上げてマイナ保険証利用率は45%、30%、15%に引き上げる。
同加算における電子処方箋導入の経過措置が2025年3月31日となっていたが、導入状況はデジタル庁ホームページ(2025年2月23日時点)によると病院5.2%、医科診療所12.1%、歯科診療所2.2%、薬局67.9%、全施設24.9%と大手チェーン店で導入が進んでいる薬局を除いて普及はまだまだだった。そのため経過措置が終わる本年4月からは、未導入の施設に対しては加算取り下げではなく、点数が低い加算4~6を新設(薬局は除く)した。さらに2025年10月以降のマイナ保険証利用率は2025年7月を目処に検討して設定とされた。
医療DXの肝となるマイナ保険証利用率は 「ドッグイヤー」 のごとく施設基準のハードルを上げている。これは犬の1年は人間の7年に相当するため、それぐらいIT関連の進化が速いという意味になる。


【2025. 4. 1 Vol.613 医業情報ダイジェスト】