介護施設

リハビリAIを活用し、個別機能訓練加算(Ⅰ)イを算定

意外と知らない介護経営のポイント
株式会社メディックプランニング 代表取締役 三好 貴之
 先日、ある通所介護の経営者から 「うちはPT(理学療法士)・OT(作業療法士)のようなリハビリ専門職を配置していないので、採用した方が良い でしょうか」 と質問を受けました。そこは、1日 型で定員が30名の通常規模型の通所介護でした。周囲には 「リハビリ特化型」 「運動特化型」 のよう な通所介護がたくさんあり、PT・OTも配置されているため、その経営者は危機感を持っていました。
PT・OTが通所介護で算定できる加算は 「個別機能訓練加算」 で、2024年度介護報酬改定では以下のように再編されました。

個別機能訓練加算(Ⅰ)イ:56単位/日
個別機能訓練加算(Ⅰ)ロ:76単位/日
個別機能訓練加算(Ⅱ):20単位/月
個別機能訓練加算(Ⅰ)のイとロの違いは、機能訓練指導員が1名か2名かの違いで、その他の算定基準は同じです。また、機能訓練指導員は10名以上の通所介護であれば、配置されている看護職員で算定が可能ですので、PT・OTがいなくても本来なら個別機能訓練加算(Ⅰ)イは算定可能です。しかし、この通所介護は看護職員が 「リハビリのことは分からない」  「クレームが来たら嫌だ」 という理由で算定していないとのことでした。
令和5年厚労省の 「賃金構造基本統計調査」 によると、理学療法士の平均年収は約432万円で、月給では約30万円です。では、新たにPT・OTを採用したとして、どれくらいの個別機能訓練加算(Ⅰ)ロを算定しないといけないかというと、人件費率50%で考えると毎日39件の算定が必要です。つまり、相談者の定員30名の通所介護ではPT・OTの 採用は難しいという結論になります。

 ▼AIを活用した個別機能訓練加算(Ⅰ)イの導入

そこで筆者は、AIソフトを活用した形で今の看護職員にて個別機能訓練加算(Ⅰ)イを算定してはどうかと提案しました。実際にこれで算定できれば、表のように増収が期待できます。居宅訪問や計画書作成の手間は増えますが、毎日20件算定できれば月に22万円の増収が期待できます。必要な投資はAIソフトのみの月数万円だけです。
紹介したAIソフトは、スマホで写真を撮ると姿勢や歩行分析を自動で行い、弱った筋肉を抽出し、さらにその筋肉を鍛えるための訓練プログラムの動画まで出してくれます。しかも、個別機能訓練加算の計画書も半自動的に作成できるため、リハビリの知識がない看護職員でも十分に活用できます。また、3か月に1回の居宅訪問に関しては送迎時に行えばよいので、特に大きな問題は考えら れませんでした。

 ▼実際に始めてみると大反響

このAIソフトを使って個別機能訓練を開始したところ、利用者からは、かなり好評でした。特に写真や動画で自分の姿勢や歩行が見られるため、 「もっと背筋を伸ばして歩いた方が良い」  「膝が曲がっているから、しっかり伸ばそう」 など、利用者自身が前向きに機能訓練に取り組めるようになりました。また、自動でできる専用の評価用紙をケアマネジャーや家族にも配布したところ、 「分かりやすい」 と評判で、3か月に1回、利用者本人だけでなくケアマネジャーや家族にも配布することにしました。さらに、新規利用の見学や体験利用時にも活用し、 「ここの筋肉が弱っているから通所介護で運動しましょう」 と誘うことで契約数も増加してきました。

 ▼個別機能訓練加算は基準緩和が続いている 

筆者は通所介護の経営を始めて11年が経過しました。筆者の通所介護は 「リハビリ特化型」 であるため、個別機能訓練加算をずっと算定しています。ここ数回の介護報酬改定を見ると、以前は個別機能訓練指導員を 「専従」 としたり、個別機能訓練指導員の要件を拡大したりして「 何とか通所介護で機能訓練を増やしたい」 という厚労省の意図を強く感じていました。確かに、現在、通所リハビリは全国で8千施設ですが、通所介護は4万3千施設と5倍以上あります。また、通所リハビリのようにリハビリ専門職が関わらなくても、単価の安い通所介護で機能訓練を行い、自立支援や重度化予防ができれば介護給付費は少なくて済みます。
しかし、ここ数回の介護報酬改定では徐々に基準緩和が進み、それに伴い単位数も減少してきています。この流れは継続し、さらに基準緩和、報酬減少を予測すると、今回のようにAIソフトを活用し、より効率的に機能訓練が提供できる体制を整備していくのも一つの戦略だと思います。


【2025年7月15日号 Vol.6 メディカル・マネジメント】