病院・診療所

AIで医師事務作業補助者は不要になる?

データから考える医療経営
株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺 優

 ■医師事務加算の届け出施設数は増え続けている

医師の働き方改革を進めるうえで、医師数を増やすことができれば理想的である。しかしながら、医師の確保は容易ではないため、多くの病院では、看護師による特定行為研修の推進や薬剤師の病棟配置といったチーム医療の充実、さらには医師事務作業補助者の配置などによって、タスクシフト・タスクシェアが進められてきた。
特に医師事務作業補助者については、診療報酬改定のたびに 「医師事務作業補助体制加算」 の点数が引き上げられてきたこともあり、多くの医療機関で積極的な配置が進められている。
加算の届け出状況を病床規模別に見ると、一般病床を有する400床台および500床以上の施設では、9割以上が届け出済みである=グラフ1=。一方で、99床以下の小規模施設では、まだ3割程度にとどまっ ているものの、年々着実に増加傾向を示している。

 グラフ1 医師事務作業補助体制加算の届出施設割合推移(総病床数別 
 

 各地方厚生局 届出受理医療機関名簿を基に作成
※各年8月調査時点、2025年のみ6月調査時点の届出施設数 

 ■医師事務作業補助者の確保は難しい

加算の届け出は増加しているものの、医師事務作業補助者の確保は容易ではない。ハローワークに掲載された医師事務作業補助者の求人票に基づき、募集賃金を分析すると、過去5年間で約150円上昇している=グラフ2=。しかし、医療機関としては診療報酬点数を原資として報酬を引き上げるのは難しい。そのため、医師の生産性向上を踏まえ、一部では医師事務作業補助者の報酬を引き上げる取り組みも見 られる。それでも、その間に最低賃金も同様に約150 円上昇しており、結果として募集賃金を上げても他産業と比べて相対的な魅力の向上にはつながっていないと考えられる。
さらに、インフレの影響により、さまざまな職種 で人件費が高騰している。医師事務作業補助者や看護補助者といった無資格職は、飲食業やホテル、製造業などの他産業とも人材確保を競い合う状況にあ る。特に、インバウンド需要の増加などで人手不足 が深刻なホテルや観光施設では、サービス料の値上 げが可能であり、それが職員への報酬アップに柔軟 に反映されている。結果として、医師事務作業補助者の確保はますます困難になっている  

 グラフ2 ハローワークにおける医師事務作業補助者の募集賃金推移(6ヶ月移動平均推移) 

 ハローワーク インターネットサービス 求人情報を基に作成
※募集賃金は、求人票の募集賃金(下限)の時給換算した金額の平均値 

 ■生成AIが事務作業する時代に医師事務作業補助者はどうしたらよいのか

近年、ChatGPTに代表されるように、大量のテキストデータを学習し自然な文章を生成できるLLM(大規模言語モデル)など、生成AIの進化が著しい。電子カルテデータなどをもとに、入院診療計画書や退院サマリー、診断書の下書きを生成AIで行う事例も、すでに多くの病院で見られるようになっている。
従来、医師事務作業補助者が担っていた業務の一部が、AIに代替されつつあるのが現状である。特に、電子カルテからの転記作業といった定型的な業務は、生成AIの得意分野であり、今後そのような業務において医師事務作業補助者が不要になる可能性は高い。
とはいえ、医師事務作業補助者を正職員として雇用している医療機関も少なくない。では、この状況にどう対応すべきか。ひとつの方策として、診療報酬の要件上、医師の事務作業に限定されていた役割を、院内全体の生産性向上を支える 「補助者」 と再定義し、業務範囲を拡大するという考え方がある。 例えば、多くの病院では薬剤師が不足しており、薬剤師の業務を補助する人材もまた十分とは言えない。 そのような分野において、医師事務作業補助者が支援に回ることも選択肢となるのではないだろうか。

グラフ1で示したとおり、多くの医療機関では診療報酬制度に支えられて、医師事務作業補助者の配置拡充を進めてきた。また、医師事務作業補助体制加算においては経験年数が求められるようになり、 貴重な人材としての成長も見られる。このような人材を、生成AIの登場を理由に手放してしまうのはあまりに惜しい。たとえば、 「医師事務作業補助体制加算」 を 「院内事務作業補助体制加算」 のような名称に変更し、業務範囲の大幅な見直しを行うことで、これまでの経験を活かしつつ、院内の生産性向上に貢献できる体制づくりが可能になるのではないだろ うか。


【2025年7月15日号 Vol.6 メディカル・マネジメント】