財務・税務

その違和感、見過ごしていませんか? 税理士変更を考えるべき5つのサイン

薬剤師×税理士の薬局経営教室
アシタエ税理士法人 税理士・薬剤師 市川 秀
今回は少し変わったテーマとして、 「税理士を変更すべきタイミング」 についてお話ししたいと思います。
調剤薬局は、薬価改定や医療制度改革、地域医療連携の推進といった外部環境の影響を大きく受ける業態です。そうした変化に柔軟に対応するためには、経営の数字を読み解き、戦略をともに考えてくれる税理士の存在が欠かせません。しかし現実には、長年付き合っている税理士に対して、何となく違和感を覚えながらも、そのまま関係を続けている経営者の方も少なくありません。
では、どのようなサインが現れたら 「顧問税理士の見直し」 を真剣に検討すべきなのでしょうか。

1.経営フェーズと税理士の対応力がかみ合わなくなった

創業当初は 「とにかく決算を組んでくれるだけでありがたい」 と感じていたかもしれません。しかし店舗が増え、採用・資金調達・M&Aといった課題が出てくる成長期においては、それだけでは不十分になります。
調剤薬局では、レセプト入金のタイムラグや返戻の管理、薬剤在庫の評価など、業界特有の論点も多く、これらに精通した税理士でなければ、適切な財務判断を支えることはできません。成長スピードに、税理士の知識と提案力が追いついていないと感じるなら、それは見直しのひとつのサインです。

2.税理士が薬局経営への理解や関心を持っていない

 「施設在宅を広げたい」 と相談しても、 「施設在宅とは?」 と逆に質問される。こういったケースは実際にあります。試算表を出すだけで、調剤報酬改定や地域医療計画といった環境変化にまったく言及しない――それでは経営判断の拠り所にはなりません。
薬局は、薬価1点、単価1円の変化が粗利に直結するシビアな業態です。業界に対する知識がなく、興味すら持っていない税理士では、事業の変化に寄り添うことは難しいでしょう。

3.担当者が頻繁に変わり、引継ぎも曖昧

税理士事務所と契約していても、実際に対応してくれるのは担当者です。その担当者が毎年のように代わり、過去の資料を何度も求められる、質問への回答が遅くなる――こういったことが続くと、経営のストレスになっていきます。
 「人手不足で対応が難しい」 と言われてしまえばそれまでですが、それは事務所の体制や運営方針に課題があるということ。結果的に、そのしわ寄せを経営者が受けていることを見過ごすべきではありません。

4.デジタル対応や業務スピードにズレを感じるようになった

電子帳簿保存法やインボイス制度、クラウド会計の普及により、会計業務のデジタル化が急速に進んでいます。にもかかわらず、 「領収書をFAXで」  「試算表は翌月末に提出」 といったアナログ対応を続ける税理士事務所も少なくありません。これは単なる怠慢ではなく、DXへの意識や体制そのものに課題がある可能性があります。また、質問への返信が遅い、資金繰り相談に踏み込んだ回答がないといった対応では、経営判断が後手に回りかねません。今後の薬局経営には、スピードと柔軟性が求められます。こうした違和感は、顧問税理士の見直しを考える大きなサインとなるでしょう。

事例:顧問変更で“未来志向の経営”へ転換できたケース
私のところにご相談に来られたのは、地域密着型の1店舗薬局でした。面対応を中心にしつつも、個人在宅・施設在宅の受け入れを通じて売上を伸ばしてきた実績のある薬局です。
ところが、当時の顧問税理士は試算表を2か月遅れで提出するのみ。面談は資料回収が中心で、経営助言は一切なし。相談しても、基本的な理解がない様子で、会話が成り立たなかったといいます。
私が関与してからは、まず過去の数値を整理し、資金繰りと収支構造を 「見える化」 。さらに、今後の投資計画に対して 「いつ資金が減り、いつ回収できるか」 というシナリオを共有し、戦略的な資金管理を導入しました。結果として、施設在宅の拡大に必要な人材採用や設備投資をスムーズに実行でき、半年後にはキャッシュフローの改善と粗利率の上昇が確認されました。

顧問変更のベストタイミングは?

理想は決算月の2~3か月前。月次が一段落したタイミングであれば、スムーズに残作業を整理し、新しい税理士と次年度に向けた計画を立てやすくなります。一方、12月や3月など年末年始に差し掛かる時期は避けたほうが無難です。レセプト入金サイクルや棚卸業務などのタイミングも考慮し、余裕を持った移行計画を立てることが重要です。

最後に

税理士を変えることはゴールではありません。それは、経営を次のステージに引き上げるための手段です。
調剤薬局業界は今後、地域包括ケア、オンライン服薬指導、セルフメディケーション対応など、従来の 「薬を出す」 業務を超えた役割が求められる時代に入ります。そうした変化のなかで、“今の自社に足りないピース” を埋めてくれる税理士こそが、次のパートナーです。
もし、今回ご紹介した内容に一つでも心当たりがあれば、一度立ち止まって、 「誰と一緒にこれからの経営を進めていくべきか」 を考える機会にしてみてください。


【2025.7月号 Vol.3 Pharmacy-Management】