組織・人材育成

報告してくれなかった!vs報告が無くて嬉しい!

報連相の「報告」に関する2つのケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
4月から新しいメンバーが入職された医療機関も多いと思いますが、5月に突入し新年度の組織の雰囲気はいかがでしょうか? さて、今回は2人の院長先生から「お仕事における報告」に関する真逆の反応を頂いた事例から、より良い組織の在り方を考えましょう。
今回もめまぐるしく変化する医療業界で努力される皆さまをご紹介することで、少しでも皆さまの組織のお役に立てることが出来たら幸いです。

ケース:

組織におけるコミュニケーションの課題として「報連相」というキーワードが出ることがあります。同時期に2つの異なるクリニックの院長先生から報連相の「報告」に関するお話がありました。

①報告が無い!
Xクリニックの院長先生は悩んでいました。何度注意をしても、クリニックのNo.2の医師Aさんからの報連相が無いのです。物の置き場が変わったり、何かの予定が突然入っていたりするなど、気が付くと独自で判断していることが多いというのです。
「一人で仕事しているわけではないのですから、クリニックの一員として何かのフローを変えたのであれば教えてほしいのです。そのようなことが起こるたびに注意してきたのですが、最近は半分諦めの気持ちも芽生えてきてしまいました。A先生ですか? 報告が必要なことを理解しているのかしていないのか…私にも分かりません」

②報告が無くて嬉しい!サプライズ大好き!
「昼休みにパソコンの前でスタッフ2名が作業をしていたので画面を覗くと『まだ見ないでください!』と画面を隠されてしまいました。きっと面白いことをやってくれるに違いありません!」とにこやかに話をするのはYクリニックの院長先生。以前はヒトに悩み、離職率の高い職場を何とか変えたいと試行錯誤を重ねた末に、今のクリニックの姿に辿り着いたと院長先生は涙ながらに語ります。この出来事から2週間後、院長先生は受付に置いてある駐車場の説明文が変わっていることに気が付いたのです。駐車場の案内が非常に明るいタッチで分かりやすい表現に変更されていることに喜んでいると、院長先生の後ろから(院長先生曰く)いたずらが成功した子どものような表情をした前述のスタッフ2名の姿が!「院長先生なら気が付いてくれると思っていました」というスタッフの言葉に感動したという院長先生は「こんなに仕事を楽しめるスタッフを育てる環境づくりが出来たことが嬉しくて仕方がありません。報告してくれなくて嬉しいと思える日が来るなんて思いませんでした」と伝えてくださいました。

このケース、どのような感想を持たれましたか?
ちなみに、XクリニックもYクリニックも同じスタッフ数です。①と②のケースでは報告する内容の質が違うという面はありますが、報告に対する考え方がX院長先生とY院長先生とでは異なっています。実は②のY院長先生も以前は①のX院長先生と同様に「報連相」が無い事に憤っていました。Y院長先生は「今思えば何で怒っていたのか…今となっては自分が『報連相が出来ない』環境を作っていたんだと痛感します」とおっしゃいます。報連相を気にしなくなった今の方が、スタッフ間のコミュニケーションがスムーズだと感じるそうです。第三者的に関わる私からすると、Yクリニックでは組織の在り方や個人の在り方について研修や目標管理などで振り返るようになってから、スタッフが互いに興味を持ち合うようになりました。そのため、些細なことであっても日常的にコミュニケーションを取ることが当たり前になっており、②のケースのように「何かが起こっている」ことを誰もが容易に把握できる環境が整っていると感じています。

報連相はお仕事において重要です。特に院長先生という立場からは見えにくい組織の状況も、報連相によりスタッフから得られた情報から的確な判断を行うことによってリスクを回避したり機会を逃さないことに繋がります。ただ、報連相はコミュニケーションの一要素です。相手が報連相という行動を起こすことが前提ではなく、双方の良好な関係性が前提で報連相が成り立つはずです。その視点が欠けてしまうと相手ばかりを責めてしまい、自らを省みることが出来ず、問題解決に繋がりません。

さて、皆さまの組織では報連相しやすい環境が整っていますか? スタッフは院長先生をはじめとしたリーダー層に対して忌憚のない意見が言えていますか? ご自身が認識しているよりも、もしかしたら言いにくいこともあるかも知れません。報連相が出来ていないことに意識を向けるよりも、組織内でどのような環境を整えると望ましい報連相が行える組織となるのか、院内の皆さまで話し合う機会を作られることをお勧めいたします!


  【2022. 6. 1 Vol.545 医業情報ダイジェスト】