診療報酬

「紹介受診重点医療機関」 定額負担の外来収益への影響は?

課題は経済的な問題だけではない
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
あけましておめでとうございます。医療機関を取り巻く環境は引き続き変化著しいものとなっていますが、本年も皆様のお役に立てるような情報提供を心掛けてまいりますので、お付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

さて、2023年は病院の新しい役割として「紹介受診重点医療機関」が誕生する。対象病院は、医療資源を重点的に活用する外来(重点外来)の割合を基準として、「外来医療に係る地域の協議の場」による協議のうえ決定される。紹介受診重点医療機関になることのメリット、デメリットには、以下の1~4の項目が挙げられる。紹介受診重点医療機関になった場合に特に心配なのは、3の定額負担の徴収義務ではないだろうか。

  1.  紹介受診重点医療機関入院診療加算を算定できる
  2.  連携強化診療情報提供料を算定できる
  3.  紹介状なしで受診した患者から定額負担の徴収義務が生じる
  4.  紹介割合、逆紹介割合が基準を満たさない場合、初診料、外来診療料が減算になる
先立って特定機能病院や地域医療支援病院(一般病床200床以上)では、昨年10月より、従来の定額負担額が引き上げられ、初診の場合は7,000円の徴収を義務付けられた。ただし、紹介状がなくても、下記に該当する患者は定額負担を求めなくてよいこととなっている。

[初診の場合]
  1.   自施設の他の診療科から院内紹介されて受診する患者
  2.   医科と歯科との間で院内紹介された患者
  3.   特定健康診査、がん検診等の結果により精密検査受診の指示を受けた患者
  4.   救急医療事業、周産期事業等における休日夜間受診患者
  5.   外来受診から継続して入院した患者
  6.   地域に他に当該診療科を標榜する保険医療機関がなく、当該保険医療機関が外来診療を実質的に担っているような診療科を受診する患者
  7.   治験協力者である患者
  8.   災害により被害を受けた患者
  9.   労働災害、公務災害、交通事故、自費診療の患者
  10.   その他、保険医療機関が当該保険医療機関を直接

受診する必要性を特に認めた患者(※急を要しない時間外の受診、単なる予約受診等、患者の都合により受診する場合は認められない)

■定額負担による患者減少の影響は?

定額負担により外来の受診患者数は減少することが見込まれるが、外来収益にはどの程度の影響があるのだろうか。
今回は「初診かつ単価5,000円未満の外来受診患者(以下、該当患者)がすべて紹介状なしと仮定した場合に、定額負担によって外来収益がどの程度変動するのか試算した。

図はA病院の該当患者が30%減少、50%減少、70%減少、90%減少した場合における、外来収益に占める患者減少による減収額の割合、定額負担による増収額の割合、増収額と減収額の差額の割合を示した。
A病院では、該当患者が70%減少したとき、減収額と増収額がほぼ同じになるようだ。ただし、紹介受診重点医療機関入院診療加算を算定できるようになることで、100床あたり年間2,000万円前後の増収を期待できる。仮に外来の対象患者が90%減少しても、病院全体の収益はプラスに振れる見込みとなる。



■課題は経済的な問題だけではない

病院の場合、外来患者に占める初診患者の割合は10%前後のところが多いだろう。また初診で紹介状を持たず、かつ救急患者でもない場合、少なくとも初診の外来単価は高くならないケースが中心になる。そのため、該当患者の減少による収入減があっても、入院料の加算による増収額の方が大きくなりそうだ。
しかし、定額負担は経済的な問題だけでなく、地域における役割への懸念やレピュテーションリスク(ネガティブな評判が広まることによるリスク)を恐れて、意思決定に熟考している病院が少なくないだろう。特に中山間地域をはじめとした人口密度の低いエリアでは、近隣に医療機関が少なく、基幹病院が急性期からプライマリまで担っていることも多いため、重点外来の基準は満たしているものの、紹介受診重点医療機関に手上げするか二の足を踏んでいるという話はよく耳にする。

「外来医療に係る地域の協議の場」はこれから各地域で開催されることになっている。都市部はスムーズに役割分担が決まると推察するが、地方ではどのような決着になるのか。いずれにしても、外来診療におけるそれぞれの医療機関の役割、そして病院として目指している方向性が、これまで以上に明確化するものと考えている。


【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】