診療報酬

データから看護補助者確保の難しさを考える

看護必要度厳格化でも現場の業務負担は変わらない
株式会社メディチュア  代表取締役 渡辺 優

■看護必要度厳格化でも現場の業務負担は変わらない

2024年度改定により重症度、医療・看護必要度は、救急搬送の評価日数が短くなることでいずれの病棟も厳しいことが想定される。加えて、B項目の評価がなくなる7対1看護配置の病棟において、高齢患者等を積極的に受け入れているところは特に厳しい改定となることが想定される。
看護必要度の該当患者割合の基準をクリアできるように、病床高回転化や手術患者などの新入院患者の増加対策を講じることが重要である。もし看護必要度の基準をクリアできない場合、7対1看護配置の病棟であれば、10対1の入院料などへのダウングレードや、病床のダウンサイジングを検討することになるだろう。ただし、入院料を10対1にダウングレードしたところで、病棟の業務負担は変わらないため、看護師の配置を大幅に減らすことは非現実的だろう。加えて働き方改革により、医師は看護師や薬剤師、医師事務作業補助者などへのタスクシフティングを進めている。このタイミングで看護師の数を減らすことは、残された看護師の大量離職に突き進みかねない危険な対応である。それゆえ、厳しい診療報酬改定や働き方改革を乗り越えるには、看護師もまた看護補助者などへのタスクシフティングを進めていくことが求められている。

■最低賃金+100円程度で看護補助者は確保できるのか

しかし、ここ数年は看護補助者がなかなか確保できない話をよく聞く。コロナ禍の最初の頃は、職場として「病院」が忌避され、応募が減ったと聞いた。しかし、コロナが当たり前になった現状においても看護補助者の確保は難しい。背景のひとつには、訪日外国人観光客が増え、宿泊・観光業など他産業が非常に活況にあることなどが影響しているだろう。2023年の訪日外国人の旅行消費額は5.3兆円に達し、コロナ前の水準を超え過去最高となった=グラフ1=。

グラフ1 訪日外国人旅行消費額推移

観光庁 訪日外国人消費動向調査を基に作成

他産業が活況な中で、看護補助者の雇用環境はどうなっているだろうか。そこでハローワークの求人情報を基に都道府県別の平均募集賃金(時給換算、下限)と最低賃金を見た=グラフ2=。その結果、どの都道府県も最低賃金+100円程度で募集している。病院は人材確保が困難なためにその募集賃金を上げたとしても、その分をサービス単価に乗せることができない。そのため、診療報酬点数を考慮しながら募集賃金を設定しようとすれば、最低賃金+100円が精一杯と理解すべきグラフだろう。

グラフ2 ハローワークにおける看護補助者の平均募集賃金(時給、下限)と最低賃金の関係

※月給による募集は時給に換算し計算
ハローワークインターネットサービス 求人情報、厚生労働省 平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況を基に作成

24年度改定において、看護補助充実体制加算は、看護補助者の定着に向けた取り組みとして、看護補助者の経験年数による配置要件、キャリアラダーの活用などの施設基準が定められた。しかし、最低賃金+100円のラインでの募集がどの都道府県でも普通である現状は、長期的な雇用・定着の面で、不利と言わざるを得ない。

看護補助者の募集賃金(下限)と各地域の最低賃金との差額について分布を見た=グラフ3=。求人件数の6割は、最低賃金+100円未満の募集賃金が提示されている。一方、全体の1割未満ではあるが、最低賃金より300円以上高い賃金を提示しているケースも見られる。

グラフ3 ハローワークにおける看護補助者の平均募集賃金(時給、下限)と最低賃金の差額分布(求人件数比率)

※月給による募集は時給に換算し計算
ハローワークインターネットサービス 求人情報、厚生労働省 平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況を基に作成

これらの求人票を個別に見ていくと、勤務条件に土日出勤や夜勤を含むケースが多い。しかし、なかにはそのような条件のないものもある。明らかに積極的な確保のために賃金を引き上げたケースも見られる。24年度診療報酬改定の方向性を踏まえるならば、看護補助者は長く働き続けてもらう環境を整備することが重要である。身体的拘束などの要件をクリアできれば増収も期待できるだけに、雇用条件の見直しを行い、人材確保の競争力向上を図ることが重要になるのではないだろうか。


【2024. 4. 15 Vol.590 医業情報ダイジェスト】