診療報酬

好景気でノンライセンス職採用がますます困難に

このままでは病院事務職を目指す大卒者が減少していく
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 他産業の賃金引き上げがさらなる負のスパイラル発生へ

2024年度診療報酬改定における本体0.88%引上げは「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種2024年度にベア+2.5%、2025年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応+0.61%」「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分+0.28%程度を含む」とされた。処遇改善に充てられたことは評価して良いが、十分な額とは言えない。

よく、経営セミナーにおいて民間企業経営者が経営努力で経営改善を行ったことを自慢するが、医療・介護施設との大きな違いは自社製品の価格を企業側の一存で値上げ可能なことだ。本年1月に大手ハンバーガーチェーンはメニュー全体の約3割に相当する商品の店頭価格を10〜30円値上げした。主力人気バーガーは450円から480円となり、2022年以降、全国の店舗で一斉に値上げするのは4回目となった。理由は原材料価格や人件費の高騰、為替の円安が定着していることなどに対応するためだ。一方、病院給食が2024年改定で1食あたり640円がなんと25年ぶりに患者負担を30円増やして670円になった。医療機関は室料差額や人間ドック料金などの一部を除いて、勝手に価格を患者に転化することはできない公定価格による計画経済下にあるのが辛いところだ。

■ このままでは病院事務職を目指す大卒者が減少していく

2024年改定における本体0.88%引上げは全産業の賃上げ見通し(厚労省予測3.95%)と比較すると明らかに足りない。これからの高齢者増加、現役世代の働き手不足を考えると、医療・介護業界を目指す若者が少なくなることを危惧せざるを得ない。すでに医療機関におけるノンライセンス職である「看護補助者」「調理補助者」、そして「4大新卒事務職員」は、筆者の関係する病院において応募者減少が顕著に表れている。

大卒事務職員は世の中の景気が良くなく、民間企業が採用枠を縮小するほど病院側は採用しやすい傾向にある。現在は全くその逆である。求職者1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は「就職のしやすさ」の指標である。求職者10人に対して求人が20件あるとき、有効求人倍率は2.0倍で「売り手市場」であり、「就職はしやすい」となる。一方、有効求人倍率が1を下回り、数値が小さいほど「就職しにくい」という「買い手市場」になる。バブル経済崩壊後の1993年〜2005年あたりは就職氷河期(ロストジェネレーション世代)であり、現在、30代後半から50代の働き盛りが該当する。筆者が病院に就職した1982年はバブル経済前で有効求人倍率は0.61倍となかなか厳しい時代であった。

デフレ時代は4大新卒事務職員も採用しやすい時代が続き、大学も関東で言えば「大東亜帝国」(大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士舘)や「日東駒専」(日本、東洋、駒沢、専修)だけではなく、東京六大学からの採用も増加傾向にあった。新卒病院就職ではないが、知り合いに東大卒の事務管理者も2名ほどいる。病院経営にマネジメントが必要と言われて久しいが、このまま民間企業と給与格差が拡大すれば、病院事務職を目指す大卒者がいなくなってしまうのではないだろうか。


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【2024. 5. 1 Vol.591 医業情報ダイジェスト】