診療報酬

電子的保健医療情報活用加算の廃止と過去に消えた点数

マイナ保険証を提出すると自己負担が高くなる 逆インセンティブ解消へ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ マイナ保険証を提出すると自己負担が高くなる逆インセンティブ解消へ

8月10日の中医協において、来年4月から医療機関や薬局にオンライン資格確認システムの導入が原則義務付けされるのに伴い、本年4月改定で創設された「電子的保健医療情報活用加算」を見直すことになった。マイナ保険証を利用した場合に初診7点、再診4点を算定する加算だった。
そして、マイナ保険証を利用しない場合も初診に限定だが3点(2024年3月末まで限定措置)の加算があった。初診だと、マイナ保険証を利用すれば7点(患者負担は3割負担ならば70円の3割21円)、一方、利用しなければ初診3点(同30円の3割9円)と安くなる逆インセンティブになっていた。つまり、マイナ保険証提出損というわけだ。

代わりに本年10月から「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」を新設した。施設基準は①オンライン資格確認を行う体制を有していること、②薬剤情報、特定健診情報等を取得・活用して診療を行うことをホームページや院内に掲示することである。患者が通常の保険証を利用した場合は加算1の4点を算定し、マイナ保険証を提出して医療機関がオンライン資格確認等により情報を取得等した場合には、加算1よりも低い加算2の2点を算定する。10月から通常の初診は4点加算、マイナ保険証を提出すれば2点低くなり、患者負担も軽減する。なお、再診には同加算は設定されていない。

■ 過去も患者負担増の妊婦加算は政治主導で廃止に

マイナ保険証を提出すれば患者負担が高くなるという点数設定は、自己負担分が少額ではあるとは言え、構造的な欠陥があったことは否めない。
自己負担増が問題視されたのは2018年度改定で創設された妊婦加算(初診料75点加算、再診料・外来診療料38点加算)の記憶が新しい。同加算は2019年1月から凍結されて最終的には廃止となった。理由はSNSやマスコミ報道で自己負担増に対して「少子化に逆行する妊婦税では」といった批判が相次いだためだ。
同加算はハイリスクな妊婦診療に対する“懇切丁寧な診療”という「医師の技術料」(ドクターフィー)を正当に評価した加算であったが、SNS上において「患者への十分な説明がない」「コンタクトレンズ処方でも加算はおかしい」といった指摘があった。中には「妊婦以外には丁寧に診察しないのか」といったコメントがあり、加算による患者負担増はけしからんというSNSを発端にした世論に押し切られた形になった。

当時、自民党政権主導で廃止が決定された経緯に中医協が遺憾の意を表した。しかしながら、2022年改定でも改定率プラス財源のうち0.2%が不妊治療、0. 2%が本年10月からの看護職処遇改善に充てられることが社会保障審議会や中医協での議論前に配分が決定しており、政治主導の傾向はより顕著になっている。

■ 後期高齢者終末期相談支援料の蹉跌(さてつ)も

厚労省には20 08年改定で創設され、廃止となった「後期高齢者終末期相談支援料」(200点)の苦い経験がある。同支援料は終末期で回復が見込めないと医師が判断した75歳以上の後期高齢者が対象のリビングウィル(生前の意思表示)を評価したものだった。医師や看護師などが共同で患者や家族と終末期の診療方針を話し合い、その内容を文書で提供した場合に算定できたが、患者に終末期の医療方針の選択を迫ることで、それ以外の必要な医療を受けられなくなりかねないと懸念する声があった。

当時は消えた年金問題と後期高齢者医療制度創設に対する批判で民主党(当時)が攻勢を強めており、その後、2009年9月に政権交代となり鳩山政権が誕生した。そのような政治背景で「妊婦加算」と同様に中医協による検証を経ないで政治力学で凍結され、最終的に廃止された。現在、地域包括ケア病棟や在宅療養支援病院等ではすでに施設基準となっている「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を、加算や個別点数ではなく届出要件にしたのは、後期高齢者終末期相談支援料の蹉跌を踏まえているわけだ。治療やケアの方針を家族や患者と一緒に考えるACPの愛称は「人生会議」とされた。このネーミングにはさまざまな意見があったが、個人的にはセンスが良いと思う。


【2022. 10. 1 Vol.553 医業情報ダイジェスト】