病院

自治体病院は令和5年度中に経営強化プランを作成

コロナ後の公立病院の方向性は
ウェルタクト リサーチアンドテクノロジー株式会社  代表取締役 星 剛史
皆さんの勤務先の周辺に自治体病院はございますか?自院で対応できない検査、治療等について、自治体病院と連携している民間医療機関は多いと思います。
総務省は全国の自治体病院に向けて、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン(令和4年3月29日)」を通知しました。各自治体病院は、総務省のガイドラインに対応した令和9年度までの中期計画を作成することになります。作成期限は令和5年度中であり、今年度、来年度の2年間で、今後の経営方針を検討します。連携先の自治体病院の診療体制に変化があるかもしれません。

ガイドラインで示された記載内容の概要は下記のとおりです。

●公立病院経営強化プランの内容

(1) 役割・機能の最適化と連携の強化
  •  地域医療構想等を踏まえた当該病院の果たすべき役割・機能
  •  地域包括ケアシステムの構築に向けて果たすべき役割・機能
  • 機能分化・連携強化
(2) 医師・看護師等の確保と働き⽅改⾰
  •  医師・看護師等の確保(特に、不採算地区病院等への医師派遣を強化)
  • 医師の働き⽅改⾰への対応
(3) 経営形態の⾒直し
(4) 新興感染症の感染拡⼤時等に備えた平時からの取組
(5) 施設・設備の最適化
  • 施設・設備の適正管理と整備費の抑制
  •  デジタル化への対応
(6) 経営の効率化等 ・ 経営指標に係る数値⽬標

筆者は今年度に入ってから、12か所程の自治体病院に、経営強化プランの作成支援を行っています。その経験から、いくつかの自治体病院の抱える課題が見えてきましたのでご紹介します。もしかしたら、皆さんの連携先の自治体病院も同様の課題を抱えているかもしれません。

●補助金頼みの経営 経常収支黒字化の計画が作れない

総務省は、令和9年度までに経常収支黒字化となる計画とするようガイドラインにて示していますが、とても黒字化を目指せないような病院があります。
令和4年度時点において、多くの自治体病院は患者数が激減しています。新型コロナウイルス感染症による診療制限や受診控えの影響によるものですが、コロナ以前と比較して、入院、外来ともに患者数が減少しており、医業収益が減少しています。一方、コロナ対策に係る人件費等が増加した結果、医業費用は増加し、医業収支が大きく悪化しています。多くの急性期病院は、新型コロナウイルス感染症関連補助金を受け取っており、補助金を含めた経常収支では多くの病院が黒字に転じています。
経営強化プランでは経常収支が黒字となる計画を立てることになりますが、コロナ関連補助金がこの先続くとは考えられません。ではコロナ以前の患者数が戻るのかというと、地域ニーズと診療提供体制がマッチしているかどうかに関わってきます。介護や在宅医療の需要はまだ伸びる地域もあるでしょうが、急性期医療を必要とする患者数が伸びる地域は一部都市に限られるでしょう。


※ 地方独立行政法人、指定管理者制度導入病院を除き、2期のデータのある自治体病院(出所:地方公営企業年鑑)

●診療体制を見直さざるを得ない場合の方針案

このままでは医療需要が減少し、経常収支のバランスが保てない、そのような自治体病院は中期計画の中で、経営方針の見直しを行わなくてはならないかもしれません。いくつかの方針変更の案と、近隣医療機関への影響の可能性を記載します。

①病床をダウンサイジングする
医療需要の低下に合わせて病床規模を減らす病院は少なくありません。翌年以降の看護等の採用人数が減少するでしょう。地域全体の医療従事者の人数に影響があるかもしれません。

②急性期機能の一部を手放す
放射線治療を辞める、診療科を減らす、救急の受け入れ時間帯を短くするなど、一部の急性期機能を少々距離の離れた基幹病院に託し、急性期機能を縮小する病院もあります。連携先が遠方となる可能性があります。

③回復期や介護等、機能転換
急性期機能を縮小すると同時に、空いた病棟を地域包括ケア病棟などの回復期機能や、老人保健施設、介護医療院等に転換する病院もあります。地域の連携の流れが変わる可能性があります。

④近隣病院との再編・統合
民間医療機関との経営統合や、指定管理者制度、民間譲渡等により、公設公営から転換する病院もあります。運営主体が民間になると、地域の診療体制が大きく変わるかもしれません。


【2022. 12. 15 Vol.558 医業情報ダイジェスト】