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医師の働き方改革で誰が幸せになるのか

大学病院からの派遣医師、受け入れ病院、患者さんの誰が幸せになるのか
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■「A水準」適用には宿日直の許可取得が必要

2024年4月の診療報酬、介護報酬、障害者総合支援法のトリプル改定まで1年を切った。同時に改正医療法・労基法による「医師の働き方改革」も施行される。具体的には医師の労働時間に上限規制が適用され、医療機関の機能ごとに下記の3つの水準が設定されている。

【表】各適用水準と時間外労働の年間上限期間


基本となる水準が「A水準」で、「臨時的な必要がある場合」に延長できる時間は「年960時間以下/月100時間未満」が上限になっている。「B水準」は「年1860時間以下/月100時間未満」が上限となり、指定に係る医師の派遣要件に適う場合は「連携B」になる。「C水準」は研修医や専攻医など、基礎的な技能や能力の習得が必要な場合や高度な技能を持つ医師を育成する場合などが該当する。

施行まであと1年を切ったが、「A水準」を適用するためには労働基準監督署の宿日直の許可取得が義務ではないが、必須であることは間違いない。基本的な条件は「通常はほとんど業務が発生せず、夜間に十分な睡眠が取り得る」であり、また、「1人当たりの宿日直を宿直は週1回、日直は月1回に収める」などである。いわゆる「寝当直」であり、夜間頻回に救急患者や入院患者の急変による勤務が発生して、十分に眠れないような宿直業務は時間外勤務になる。
最近、医師派遣元の大学病院が関係医療機関に対して、労基の宿日直許可取得を求めている事例をよく聞く。理由は宿日直許可がある副業先であれば、原則的に勤務時間とみなされないため、大学病院側も時間外労働時間に換算しなくても良いからである。医師派遣先の病院側から見れば、大学病院からの宿日直医師の引き上げリスクを回避できる。

■A・B・C水準ともに進捗は芳しくない状況にある

1860時間が上限の「B水準」と「C水準」は医療機関勤務環境評価センターへの申請が必要になるが、「A水準」の宿日直許可取得と同様に現時点における進捗はあまり芳しくない。一般労働者と違って医師の働き方改革で難しい点は「診療の求めを原則として断れない応召(おうしょう)義務」がある点であり、手術は工場のように定時だからといってラインを止めて途中で帰るわけにはいかない。また、多くの医師は労働者だけではなく、「研究者として自己研鑽する立場」でもある。

医療機関側で医師負担軽減に即効性があるのは「医師業務のタスクシフト、タスクシェアの推進」である。医師が行う作業を他職種が行うのが「タスク・シフティング」(業務の移管)だ。厚労省が行った「2022年度入院・外来医療等における実態調査」によると、所属している診療科で実施している負担軽減策は「薬剤師による投薬に係る患者への説明(47%)」が最も多く、2位が「薬剤師による患者の服薬状況、副作用等に関する情報収集と医師への情報提供(44%)」、3位が「医師事務作業補助者の外来への配置・増員(43%)」だった。

■ 大学病院からの派遣医師、受け入れ病院、患者さんの誰が幸せになるのか

薬剤師の増員は医師負担軽減には不可欠であるが、調剤薬局との賃金競争において叶わない病院が多い。つまり、採用したくても薬剤師の応募がない。3位の医師事務作業補助体制加算は前回2022年度改定でも、ほとんどの点数が据え置かれた中で引き上げられている。とりあえずは医師事務を増員して医師負担軽減を行う必要があろう。
「タスク・シェアリング」(業務の共同化)とは同じ国家資格者同士で業務をシェアすることであり、医師であれば調査では4位になった「複数主治医制への移行(34%)」が該当する。他にも在宅医療におけるグループ診療によって24時間対応の在宅担当医師を増やす等がある。

現在、常勤医師が少なく、平均年齢も高い中小民間病院の当直業務は、大学病院からの派遣非常勤医師に支えられている。派遣医師は朝まで当直勤務し、そのまま大学病院に出勤するという業務であった。これが不可能になれば、「当直医が確保できない中小民間病院」「生活費が稼げない大学病院医師」ともに幸せではない。さらに夜間診療体制が手薄になれば、最終的には患者に迷惑がかかってしまう。医療機関には働き方改革への対応が求められるが、新型コロナパンデミックが発生した2020年度決算から、医業利益はマイナスだが、何とか新型コロナの補助金等で経常利益をプラスにしてきた病院にとって辛いところだ。医師の働き方改革は誰が幸せになるのだろうか。


【2023. 7. 1 Vol.571 医業情報ダイジェスト】