病院

決算監査から医療機関の会計を考える

医療機関の決算で発見された誤りについて
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
多くの医療機関は3月が決算期であり、この記事を読まれる頃には決算理事会等も終了し、落ち着かれているのではないでしょうか。
私自身もこの記事を書いている現在は、医療法人をはじめ、社会福祉法人や学校法人、地方独立行政法人等の決算監査が順次完了し、監事としての監査が始まる時期にあります。

今回は、3月決算を振り返り、医療機関の決算で発見された誤りについて2点取り上げます。

① 請求保留額の取扱いと会計処理

皆様の医療機関では、請求保留額についてはどのように管理されていますか。保留には、当月診療分について、何らかの理由により保険請求に回せなかった分としての新規保留分、そして、返戻となったレセプトについて、再請求に回せないままとなっている返戻再請求保留分の2つの保留レセプトが存在します。
まずは、医事課がこの保留レセプトを適切に管理しているかどうかが重要となります。ある医療機関では保留分のレセプトが管理されていない、あるいは集計しているが、全額個人負担分として患者未収分として一括で管理しているなど、さまざまな方法で管理されていました。それでは、保留レセプト分はどのように管理する必要があるのか、そして会計上はどのように処理するのが正しいのか考えていきましょう。
まず、請求留保の医業未収金については、支払機関に対するものではないことから医事課では保留レセプト分をまとめて別途管理する必要があります。その際、新規保留分だけでなく、返戻再請求保留分についても集計管理しておく必要があります。
 次に、会計上の処理として、上記にある保留分の金額を経理上、未収金として処理する必要があります。これは、既に保留分は診療が完了しており、医療機関としては請求可能な金額であることから決算上は収益として取り込む必要があるからです(その後に翌期首に洗替で保留額の取り消し仕訳をする方法が一般的です)。
 この医事課が管理している請求保留額と医事会計システムの保留残高の照合が十分できていないために、保留残高が会計上適切に反映されていない医療機関も確認されました。

請求保留債権については、なるべく月次で保留残高一覧を医事課と経理課が双方で共有し、適切な残高把握と会計への反映に努める必要があります。最近では、コロナ患者の公費番号の取得が遅れるため、保留残高が多額となっている医療機関も多くみられます。保留の会計処理が適切に出来ていない場合、決算上の収益額に大きく影響しますので注意が必要です。

② 医業未収金の入金差額の処理

支払機関に対する請求額と実際の入金額との差額が生じることがありますが、この入金差額の管理と会計処理が重要です。
 まず、医事課は入金差額については適切な消込処理をした後、原因を調査し、特に多額に発生している場合には件数と金額の照合、個人との負担割合の誤りの有無等を確認し、理由不明な差異額を極力減らす必要があります。
次に、経理課は決算上ではこの入金差額についても医業未収金の取り消し処理を行い、会計上の支払機関に対する医療未収金計上額は常に現在請求している金額(通常は2か月分)と残高が一致していることを確認する必要があります。
 医療機関のなかには、医業未収金の取り消し処理がされないまま処理を続けていたことから、未収額が診療収益に対して異常な残高となっているケースも確認されました。

医業未収金計上額が収益額に対して説明のつかない残高となっていないか、医事課及び経理課が双方で支払機関に対する請求情報と入金情報及び入金差額に対する不明差額の発生状況を共有し、適切に会計に反映される流れを構築していくことが期待されます。


【2023. 7. 1 Vol.571 医業情報ダイジェスト】