病院

200床以上の地ケア2の院内転棟6割未満への対応

地域包括ケア病棟における 「院内転棟割合が6割未満」を満たさない場合の 減算ルール
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

 ■ 地ケア2を50床持つ病院で年間6,455万円減収と試算

2022年改定で最も医療現場をざわつかせているのは、地域包括ケア病棟(地ケア)2・4における「院内転棟割合が6割未満」を満たさない場合の減算ルールである。本年9月までは経過措置があるが、これまでの「対象は許可病床400床以上、減算率10%」から「許可病床200床以上、減算率15%」になった。
許可病床250床で地ケア2を50床持つある病院は院内転棟がほぼ100%のポストアキュート機能であり、新ルールだと「1日2,620点×15%減算×50床×稼働90%×365日」で年間6,455万円の減収となってしまう。これは2021年度のコロナ補助金を加えた同院の経常利益がそのまま吹き飛ぶ金額だ。

さらに地ケア2・4については、①自宅等から入棟した患者割合、②自宅等からの緊急患者の受入、③在宅医療等の実績――のうちいずれか1つ以上を満たさない場合は10%減算という新ルールも導入された。こちらも満たさない場合はさらに減算が乗じられるという情け容赦ないルールである。
たしかに地ケアが創設された当時から「サブアキュート機能」「ポストアキュート機能」「在宅復帰機能」の3つの機能はあったが、それらをバランスよく実施していなければならないとは定められていなかった。地域の医療提供体制や自院の機能に合わせた「使い勝手が良い病棟」が地ケアだったはずだが、2022年改定でそうではなくなった。

■該当する病院の3つの選択肢

200床以上で減算に該当する病院の対応としては、① 院内転棟を継続して減算を受け入れる、②地ケア病棟を廃止する、③ 院内転棟割合を6割未満にする——の3つの選択肢がある。①は減算を受け入れるものだが経営的な影響が大きい。②の地ケア病棟を廃止して急性期一般入院料に戻すことも経営上難しい。急性期一般入院料1の病院では、改定により「重症度、医療・看護必要度」の要件も厳しくなっており、地ケアを廃止すれば患者割合の新基準である「看護必要度Ⅱ:28%」を下回る場合がある。そうなれば病院全体で急性期一般入院料1の届出が困難になってしまう。

改定前の「許可病床400床以上、院内転棟6割以上で10%減算」をあえて受け入れている病院を本年2月時点の全国地方厚生局データから調査してみた。地ケアが「40床以下」では5病院、「41〜50床」では6病院、「51〜60床」では3病院、診療報酬で1病棟の病床数上限は60床までなので、「61床以上」の3病院は地ケア2病棟以上を持っている。なお、前回2020年改定で400床以上病院は地ケア届出ができなくなったので、それ以前に届出した病院である。合計で17病院が減算を受け入れており、それは119病院中14.3%にあたる。現状でも400床以上病院が10%減算を受けいれている大きな理由は、急性期一般入院料1における看護必要度割合をキープする方が優先順位が高いためであろう。
看護必要度を満たさないポストアキュート患者が地ケアに院内転棟することで基準を保つことが目的であり、「地ケア減収分<急性期一般入院料基
準下げ減収分」だからだ。しかし、今改定では15%減と割合が大きくなったため病床規模が小さいほど逆転する病院もあろう。

■ ネガティブな気分になる改定であるのは間違いない

前述の病院が年間15%、6,455万円の減収を回避するには院内転棟を6割未満、つまり地ケアへの直接入院を4割以上にする必要がある。院内転棟は月平均70人ほどいるため、4割超であれば月平均29人以上の直接入院が必要となる計算である。同院では王道の「院内転棟6割未満達成」を選択した。現在、外来や在宅等からのサブアキュート患者はまず急性期一般入院料1の病棟への入院であるが、一部患者を地ケアへ直接入院してもらうことにした。高齢者で入院期間が長めになる疾患や状態であれば、地ケアに直接入院した方が増収になるケースもある。
「ルールが変われば戦い方を変える必要がある」が経営セオリーではあるが、新型コロナ対応で病床稼働率が下がり、補助金頼みの経営になっている病院ばかりである。平時の経営状態ではない中で、看護必要度の心電図モニター全削除とともに今回は少しやりすぎなのではないだろうか。1982年の病院入職以来、40年に渡り診療報酬改定をウォッチしているが、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻など世相もよくないこともあるが、今回ほどネガティブな気分になる改定はない。


【2022. 6. 15 Vol.546 医業情報ダイジェスト】