病院

公立病院経営強化プランについて考える

あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
「公立病院経営強化プラン」という言葉をこの数年でよく聞かれたのではないでしょうか。
ご存じのとおり、総務省は令和4年度又は5年度中に全ての公立病院にこの公立病院経営強化プラン(以下、強化プラン)を策定することを求めています。昨年秋以降に開催された地域医療構想調整会議(以下、調整会議)において、各構想区域(圏域)内の必要病床数の調整にも関連して、各公立病院の強化プランをご覧になった方も多いのではないかと思われます。

強化プランでは、図にあるように、公立病院としての役割を果たしつつも、経営強化のため、そして限られた医師・看護師等の医療資源を地域全体で最大限効率的に活用する視点から、特に「役割・機能の最適化と連携の強化」をメインに、各公立病院が地域の中でどのような医療機能を果たしていくことが地域として、病院経営として最適なのかを考え、策定することが重要なポイントになっています。
しかし、図にあるような当初想定していた強化プランを各公立病院が策定できたのかと振り返ると、満足なプランにならなかった病院が多いのではないでしょうか。私自身も強化プランの策定支援に携わった立場より、反省を踏まえながら特に困難だったポイントを考えてみたいと思います。

【病床数・病床機能の見直しは非常にハードルが高い】

今回の強化プランでは、下記の5つに該当する公立病院は、地域の実情を踏まえつつ十分な検討を行い、必要な機能分化・連携強化の取組について記載することが求められていました。
ア) 新設・建替等を予定する公立病院
イ) 病床利用率が特に低水準な公立病院(過去3年間連続して70%未満)
ウ) 強化プラン対象期間中に経常黒字化する数値目標の設定が著しく困難な公立病院
エ) 地域医療構想や今般の新型コロナウイルス感染症対応を踏まえ、病院間の役割分担と連携強化を検討することが必要である公立病院
オ) 医師・看護師等の不足により、必要な医療機能を維持していくことが困難な公立病院

医療計画において定める医療機能ごとの必要病床数の調整を進める病院として、まずは公立公的の医療機関から調整すべきというのが国の考えではないかと思います。しかし、強化プランは各公立病院が単独で策定するため、構想区域で病床数を調整するとしながらも、各公立病院それぞれの想いや経営面、病院としての規模や魅力を考えると、簡単に現状の医療を手放すような議論にはなかなか至らないのが現実です。上記の5項目に当てはまる公立病院は少なくはないと思いますが、急性期病床を減らせば、医局から見る派遣先としての魅力が下がり、結果として医師数が減るような負のスパイラルを恐れ、病床規模や病床機能を見直すような踏み込んだ議論にはならなかった公立病院が多かったのではないでしょうか。



【都道府県のリードが不足】

上述のように、病床数や病院機能など公立病院単独で決めきれない部分に関し、特に今回は都道府県の役割・責任を強化し、広域的な検討をリードすることが期待されていました。しかし、残念ながら少なくとも私が関与している都道府県においては積極的な関与は見られず、プラン案に対して意見する従来のスタンスを超えた関与は少なかったのではないかと思います。この点については将来の地域医療を見直す上での大きな課題ではないでしょうか。

【医療資源の厳しさが露呈】

医師・看護師をはじめとする医療資源の不足は、これまで以上に深刻であり、特に収益確保の要となる入院収入を確保するにも病棟看護師数の不足がどの病院にも共通する課題となっているのではないでしょうか。また薬剤師の不足も深刻化し、募集採用費の増加は顕著にもかかわらず、人員不足の解消には至らないという深刻な局面を目の当たりにします。さらには、自治体財政も厳しく、公立病院への運営資金の支援(繰入金)にもメスを入れざるを得ない状況で、投資はおろか、現状の医療体制を維持することで精一杯になっているのではないでしょうか。

今回の強化プランの策定を通して、自治体病院の経営はより厳しくなっていることを感じています。強化プランの点検・評価を経て、より自治体病院の経営のあり方について、踏み込んだ議論が進むことを期待しています。


【2024. 2. 1 Vol.585 医業情報ダイジェスト】